し》のたもとに立《た》っていました。そしてよさそうな刀《かたな》をさした人が来《く》ると、だしぬけにとび出《だ》して行って奪《うば》いとります。逃《に》げようとしたり、すなおに渡《わた》さなかったりするものは、なぎなたでなぎ倒《たお》しました。
すると、このごろは毎晩《まいばん》五条《ごじょう》の橋《はし》に大坊主《おおぼうず》が出て、人の刀《かたな》をとるという評判《ひょうばん》がぱっと高《たか》くなりました。
坊主《ぼうず》ではない、てんぐだというものもありました。そしてみんなこわがって、日が暮《く》れると五条《ごじょう》の橋《はし》をとおる者《もの》がなくなりました。
ある時《とき》弁慶《べんけい》がとって来《き》た刀《かたな》を出《だ》して数《かぞ》えてみますと、ちょうど九百九十九|本《ほん》ありました。弁慶《べんけい》はよろこんで、
「うまい、うまい、もう一|本《ぽん》で千|本《ぼん》だぞ。おしまいに一ばんいい刀《かたな》を取《と》ってやりたいものだ。」
と独《ひと》り言《ごと》をいいました。そしてその晩《ばん》はわざわざ五条《ごじょう》の天神《てんじん》さまにおまいりをして、
「もう一|本《ぽん》で千|本《ぼん》になります。どうぞ一ばんいい刀《かたな》をお授《さず》け下《くだ》さい。」
といって、それからいつものように、五条《ごじょう》の橋《はし》の下へ行って立《た》っていました。
三
牛若《うしわか》は五条《ごじょう》の橋《はし》の大《おお》どろぼうのうわさを聞《き》くと、
「ふん、それはおもしろい。てんぐでも鬼《おに》でも、そいつを負《ま》かして家来《けらい》にしてやろう。」
と思《おも》いました。
月のいい夏《なつ》の晩《ばん》でした。牛若《うしわか》は腹巻《はらまき》をして、その上に白《しろ》い直垂《ひたたれ》を着《き》ました。そして黄金《こがね》づくりの刀《かたな》をはいて、笛《ふえ》を吹《ふ》きながら、五条《ごじょう》の橋《はし》の方《ほう》へ歩《ある》いて行きました。
橋《はし》の下に立《た》っていた弁慶《べんけい》は、遠《とお》くの方《ほう》から笛《ふえ》の音《ね》が聞《き》こえて来《く》ると、
「来《き》たな。」
と思《おも》って、待《ま》っていました。そのうち笛《ふえ》の音《ね》はだんだん近《ちか》く
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