髪《かみ》をあげてもらいながら、ふたりは、
「サンドリヨン、おまえさんも、ぶとう会に行きたいとはおもわないかい。」といいました。
「まあ、おねえさまたちは、わたしをからかっていらっしゃるのね。わたしのようなものが、どうして行かれるものですか。」
「そうだとも、灰だらけ娘のくせに、ぶとう会なんぞに出かけて行ったら、みんなさぞ笑うだろうよ。」と、ふたりはいいました。
 こんなことをいわれて、これがサンドリヨンでなかったら、ふたりの髪《かみ》をひんまげてもやりたいとおもうところでしょうが、このむすめは、それは人のいい子でしたから、あくまでたのまれたとおり、りっぱにおけしょうをしあげてやりました。ふたりのきょうだいたちは、もう、むやみとうれしくて、ふつかのあいだ、ろくろく物もたべないくらいでした。そのうえ、でぶでぶしたからだを、ほっそりしなやかに見せようとおもって、一ダースもレースをからだにまきつけました。そうして、ひまさえあれば、すがたみの前に立っていました。
 やがて、待ちに待った、たのしい日になりました。ふたりは庭におりて、出かけるしたくをしていました。サンドリヨンは、そのあとから、じっと見送れるだけ見送っていました。いよいよすがたが見えなくなってしまうと、いきなりそこに泣きふしてしまいました。
 そのとき、ふと、サンドリヨンの洗礼式《せんれいしき》に立ち合った、名づけ親の教母《きょうぼ》が出て来て、むすめが泣きふしているのを見ると、どうしたのだといって、たずねました。
「わたし、行きたいのです。――行きたいのです。――」こういいかけて、あとは涙で声がつまって、口がきけなくなりました。
 このサンドリヨンの教母というのは、やはり妖女《ようじょ》でした。それで、
「あなたは、ぶとう会に行きたいのでしょう。そうじゃないの。」と聞きました。
「ええ。」と、サンドリヨンはさけんで、大きなため息をひとつしました。
「よしよし、いい子だからね、あなたも行かれるように、わたしがしてあげるから。」と、妖女はいいました。そうして、サンドリヨンの手を引いて、そのへやへつれて行きました。
「裏《うら》の畠へ行って、かぼちゃをひとつ、もぎとっておいで。」
 サンドリヨンは、さっそく行って、なかでもいちばんいいかぼちゃをよって、妖女のところへ持ってかえりました。けれども、このかぼちゃで、どうして、ぶとう会へ行けるのか、さっぱり考えがつきませんでした。
 かぼちゃを受けとると、妖女は、そのしん[#「しん」に傍点]をのこらずくり抜いて、皮だけのこしました。それから妖女《ようじょ》は、手に持ったつえ[#「つえ」に傍点]で、こつ、こつ、こつと、三どたたくと、かぼちゃは、みるみる、金ぬりの、りっぱな馬車にかわりました。
 妖女は、それから、台所《だいどころ》のねずみおとしをのぞきに行きました。するとそこに、はつかねずみが六ぴき、まだぴんぴん生きていました。
 妖女は、サンドリヨンにいいつけて、ねずみおとしの戸をすこしあげさせますと、ねずみたちが、うれしがって、ちょろ、ちょろ、かけ出すところを、つえ[#「つえ」に傍点]でさわりますと、ねずみはすぐと、りっぱな馬にかわって、ねずみ色の馬車馬が六とう、そこにできました。けれども、まだ御者《ぎょしゃ》がありませんでした。
「わたし行って、見て来ましょう。大ねずみが、まだ一ぴきかかっているかもしれませんから。それを御者にしてやりましょう。」
「それがいいわ。行ってごらん。」と、妖女はいいました。
 サンドリヨンは行って、ねずみおとしを持って来ましたが、そのなかに、三びき、大ねずみがいました。妖女は三びきのうちで、いちばんひげのりっぱな大ねずみをより出して、つえでさわって、ふとった、元気のいい御者にかえました。それはめったに見られない、ぴんとした、りっぱな口ひげをはやしていました。それがすむと、妖女《ようじょ》は、サンドリヨンにむかって、
「もういちど、裏《うら》のお庭へ行って、じょろ[#「じょろ」に傍点]のうしろにかくれているとかげを六ぴき、見つけていらっしゃい。」といいました。
 サンドリヨンは、いいつけられたとおり、とかげをとってかえりますと、妖女はすぐ、それを六人のべっとうにかえてしまいました。それは、金や銀のぬいはく[#「ぬいはく」に傍点]のある、ぴかぴかの制服《せいふく》を着て、馬車のうしろの台《だい》にのりました。そうして、そこに、ぺったりへばりついたなり、押しっくらしていました。そのとき、妖女は、サンドリヨンにいいました。
「ほら、これでダンスに行くお供ぞろいができたでしょう。どう、気に入って。」
「ええ、ええ、気に入りましたとも。」と、サンドリヨンは、うれしそうにさけびました。「けれどわたし、こんなきたないぼ
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