てきた上《うわ》ぐつでしたから、ついわらい出してしまって、
「かしてくださらない。わたしの足にだってあうかもしれないから。」といいました。
すると、ふたりのきょうだいは、ぷっと吹き出して、サンドリヨンをからかったり、あざけったり、いじわるく追いだそうとかかりました。けれど、金の上ぐつを持ったお役人は、じっとサンドリヨンの顔を見て、これはめずらしく美しいむすめだとおもいましたから、たとえ、たれでも、ためすだけは、ためしてみなければならない、それが王子様のおいいつけだといいました。
そこで、サンドリヨンに腰をかけさせて、上ぐつを、その足にはかせますと、それはするりと、ぐあいよくはいって、まるでろう[#「ろう」に傍点]でかためたように、ぴったりくっついてしまいました。ふたりのきょうだいは、そのとき、どんなにびっくりしたでしょう。どうして、それどころか、サンドリヨンは、かくしの中から、もう片かたの上ぐつを出して見せました。ちょうどそのとき、サンドリヨンの教母《きょうぼ》の妖女《ようじょ》がすぐあらわれて、杖で、サンドリヨンの着物にさわりますと、こんどは、まえよりもまた、いっそう美しい、りっぱな着物にかわりました。
それで、ふたりのきょうだいには、あのぶとう会で見た美しいお姫《ひめ》さまが、サンドリヨンであったことが分かりました。ふたりは、サンドリヨンの足もとにつっぷして、これまでひどい目にあわせた罪《つみ》をわびました。サンドリヨンは、ふたりの手をとっておこして、やさしくだきしめました。そして、これまでふたりのしたことは、なんともおもわない。そのかわり、これからは、やさしくしてくれるようにといいました。
サンドリヨンは、りっぱな着物を着たまま、王子の前へつれて行かれました。王子は、それで、いよいよサンドリヨンがすきになって、それから四、五日して、めでたくご婚礼《こんれい》の式《しき》をあげました。
サンドリヨンは、顔が美しいように、心のやさしいむすめでしたから、ふたりのきょうだいをも、お城へ引きとってやって、ご婚礼のその日に、やはり、ふたりの貴族《きぞく》にめあわせることにしました。
顔とすがたの美しいことは、男にも女にも、とうといたからです。でも、やさしく、しおらしい心こそ、妖女のこの上ないおくりものだということを知らなくてはなりません。
底本:「世界おとぎ文庫(イギリス・フランス童話篇)妖女のおくりもの」小峰書店
1950(昭和25)年5月1日発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
※底本は、表題の「灰かぶり姫」に「サンドリヨン」とルビをふっています。
入力:大久保ゆう
校正:秋鹿
2006年1月21日作成
青空文庫作成ファイル:
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