んでした。それで、いいつかったしごとをすませると、いつも、かまどの前にかがんで、消炭《けしずみ》や灰の中にうずくまっていましたから、ままむすめの姉と妹は、からかい半分、サンドリヨン(シンデレラ)というあだ名をつけました。これは灰のかたまりとか、消炭とかいうことで、つまり、それは、「灰だらけ娘」とでもいうことになりましょう。
それにしても、サンドリヨンは、どんなに、きたない身なりはしていても、美しく着かざったふたりのきょうだいたちにくらべては、百そうばいもきれいでしたし、まして心のうつくしさは、くらべものになりませんでした。
二
さてあるとき、その国の王様の王子が、さかんなぶとう会をもよおして、おおぜい身分のいい人たちを、ダンスにおまねきになったことがありました。サンドリヨンのふたりのきょうだいも、はばのきくおとうさんのむすめたちでしたから、やはり、ぶとう会におまねきをうけていました。
ふたりは、おまねきをうけてから、それはおかしいように、のぼせあがって、上着《うわぎ》よ、がいとうよ、ずきんよと、まい日えりこのみに、うき身をやつしておりました。おかげで、サンドリヨンには、新しいやっかいしごとがひとつふえました。なぜというに、きょうだいたちの着物に火のしをかけたり、袖口《そでぐち》にかざりぬいしたりするのは、みんなサンドリヨンのしごとだったからです。ふたりは朝から晩まで、おめかしの話ばかりしていました。
「わたしは、イギリスかざりのついた、赤いビロードの着物にしようとおもうのよ。」と、姉はいいました。
「じゃあ、わたしは、いつものスカートにしておくわ。けれど、そのかわり、金の花もようのマントを着るわ。そうして、ダイヤモンドの帯《おび》をするわ。あれは世間《せけん》にめったにない品物なんだもの。」
ふたりは、そのじぶん、上手《じょうず》でひょうばんの美容師《びようし》をよんで、頭のかざりから足のくつ先まで、一|分《ぶ》のすきもなしに、すっかり、流行《りゅうこう》のしたくをととのえさせました。
サンドリヨンも、やはりそういうことのそうだんに、いちいち使われていました。なにしろ、このむすめは、もののよしあしのよく分かる子でしたから、ふたりのために、いっしょうけんめい、くふうしてやって、おまけに、おけしょうまで手つだってやりました。サンドリヨンに
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