、それだけあけましょう。」
「瓜子姫子《うりこひめこ》、もう少《すこ》しだ。あけておくれ。せめて頭《あたま》の入《はい》るだけ。」
しかたがないので、瓜子姫子《うりこひめこ》は頭《あたま》の入《はい》るだけあけてやりますと、あまんじゃくはするするとうちの中へ入《はい》って来《き》ました。
「瓜子姫子《うりこひめこ》、裏《うら》の山へ柿《かき》を取《と》りに行《い》こうか。」
と、あまんじゃくがいいました。
「柿《かき》を取《と》りに行《い》くのはいや。おじいさんにしかられるから。」
と、瓜子姫子《うりこひめこ》がいいました。
するとあまんじゃくが、こわい目《め》をして瓜子姫子《うりこひめこ》をにらめつけました。瓜子姫子《うりこひめこ》はこわくなって、しかたなしに裏《うら》の山までついて行きました。
裏《うら》の山へ行《い》くと、あまんじゃくはするすると柿《かき》の木によじ登《のぼ》って、真《ま》っ赤《か》になった柿《かき》を、おいしそうに取《と》っては食《た》べ、取《と》っては食《た》べしました。そして下《した》にいる瓜子姫子《うりこひめこ》には、種《たね》や、へたばかり投《な》げつけて、一つも落《お》としてはくれません。瓜子姫子《うりこひめこ》はうらやましくなって、
「わたしにも一つ下《くだ》さい。」
といいますと、あまんじゃくは、
「お前《まえ》も上《あ》がって、取《と》って食《た》べるがいい。」
といいながら、下へおりて来《き》て、こんどは代《か》わりに瓜子姫子《うりこひめこ》を木の上にのせました。のせるときに、
「そんな着物《きもの》を着《き》て登《のぼ》るとよごれるから。」
といって、自分《じぶん》の着物《きもの》ととりかえて着《き》かえさせました。
瓜子姫子《うりこひめこ》がやっと柿《かき》の木に登《のぼ》って柿《かき》を取《と》ろうとしますと、あまんじゃくは、どこから取《と》って来《き》たか、藤《ふじ》づるを持《も》って来《き》て、瓜子姫子《うりこひめこ》を柿《かき》の木にしばりつけてしまいました。そして自分《じぶん》は瓜子姫子《うりこひめこ》の着物《きもの》を着《き》て、瓜子姫子《うりこひめこ》に化《ば》けて、うちの中に入《はい》って、すました顔《かお》をして、またとんからりこ、とんからりこ、ぎいぎいばったん、機《はた》を織《お》っていました。
三
しばらくすると、おじいさんとおばあさんは帰《かえ》って来《き》ましたが、なんにも知《し》らないものですから、
「瓜子姫子《うりこひめこ》、よくお留守番《るすばん》をしていたね。さぞさびしかったろう。」
といって、頭《あたま》をさすってやりますと、あまんじゃくは、
「ああ、ああ。」
といいながら、舌《した》をそっと出《だ》しました。
するとおもての方《ほう》が、急《きゅう》にがやがやそうぞうしくなって、りっぱななりをしたお侍《さむらい》が大《おお》ぜい、ぴかぴかぬり立《た》てた、きれいなおかごをかついでやって来《き》て、おじいさんとおばあさんのうちの前《まえ》にとまりました。おじいさんとおばあさんは、何事《なにごと》がはじまったのかと思《おも》って、びくびくしていますと、お侍《さむらい》はその時《とき》、おじいさんとおばあさんに向《む》かって、
「お前《まえ》の娘《むすめ》は大《たい》そう美《うつく》しい織物《おりもの》を織《お》るという評判《ひょうばん》だ。お城《しろ》の殿《との》さまと奥方《おくがた》が、お前《まえ》の娘《むすめ》の機《はた》を織《お》るところが見《み》たいという仰《おお》せだから、このかごに乗《の》って来《き》てもらいたい。」
といいました。
おじいさんとおばあさんは大《たい》そうよろこんで、瓜子姫子《うりこひめこ》に化《ば》けたあまんじゃくをおかごに乗《の》せました。お侍《さむらい》たちがあまんじゃくを乗《の》せて、裏《うら》の山を通《とお》りかかりますと、柿《かき》の木の上で、
「ああん、ああん、瓜子姫子《うりこひめこ》の乗《の》るかごに、あまんじゃくが乗《の》って行く。瓜子姫子《うりこひめこ》の乗《の》るかごに、あまんじゃくが乗《の》って行く。」
という声《こえ》がしました。
「おや、へんだ。」
と思《おも》って、そばへ寄《よ》ってみますと、かわいそうに瓜子姫子《うりこひめこ》は、あまんじゃくのきたない着物《きもの》を着《き》せられて、木の上にしばりつけられていました。おじいさんは瓜子姫子《うりこひめこ》を見《み》つけると、急《いそ》いで行って、木から下《お》ろしてやりました。お侍《さむらい》たちも大《たい》そうおこって、あまんじゃくをおかごから引《ひ》きずり出《だ》して、その代《か》わり瓜子
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