かいな、あんなに親切な、あれほど友人としてたのもしいかれに会うことにただ一つの楽しい希望《きぼう》を持った。
七時すこしまえにわたしはあわただしいほえ声を聞いた。するとかげからカピがとび出した。かれはわたしのひざにとびついて、やわらかいしめった舌《した》でなめた。わたしはかれを両うでにだきしめて、その冷《つめ》たい鼻にキッスした。マチアがまもなく姿《すがた》を現《あらわ》した。二言三言でわたしはバルブレンの死んだこと、自分の家族を見つける望《のぞ》みのなくなったことを告《つ》げた。
するとかれはわたしの欲《ほっ》していたありったけの同情《どうじょう》をわたしに注《そそ》いだ。かれはどうにかしてわたしをなぐさめようと努力《どりょく》した。そして失望《しつぼう》してはいけないと言った。かれはいっしょになって、まじめに両親を探《さが》し出すことのできるようにしようと、心からちかった。
わたしたちはオテル・デュ・カンタルへ帰った。
捜索《そうさく》
そのあくる朝バルブレンのおっかあの所へ手紙を出して、不幸《ふこう》のおくやみを言って、かの女の夫《おっと》の亡《な》くなるまえに、なにか便《たよ》りがあったかたずねてやった。
その返事にかの女は、夫が病院から手紙を寄《よ》こして、もしよくならなかったら、ロンドンのリンカーン・スクエアで、グレッス・アンド・ガリーといううちへあてて手紙を出すように言って来たことを告《つ》げた。それはわたしを探《さが》している弁護士《べんごし》であった。なおかれはかの女に向かって、自分が確《たし》かに死んだと決まるまでは、手をつけてはならないとことづけて来たそうである。
「じゃあぼくたちはロンドンへ行かなければならない」とわたしが手紙を読んでしまうとマチアが言った。この手紙は村のぼうさんが代筆《だいひつ》をしたものであった。「その弁護士《べんごし》がイギリス人だというなら、きみの両親もイギリス人であることがわかる」
「おお、ぼくはそれよりもリーズやなんかと同じ国の人間でありたい。だがぼくがイギリス人なら、ミリガン夫人《ふじん》やアーサと同じことになるのだ」
「ぼくはきみがイタリア人であればよかったと思う」とマチアが言った。
それから数分間のうちにわたしたちの荷物はすっかり荷作りができて、わたしたちは出発した。
パリからボローニュまで道みち主《おも》な町で足を止めて、八日がかりでやっとボローニュに着いたとき、ふところには三十二フランあった。わたしたちはそのあくる日ロンドンへ行く貨物船《かもつせん》に乗った。
なんというひどい航海《こうかい》であったろう、かわいそうに、マチアはもう二度と海へは出ないと言い切った。やっとのことで、テムズ川を船が上って行ったとき、わたしはかれにたのむようにして、起き上がって外のふしぎな景色《けしき》を見てくれといった。けれどもかれは、今後も後生《ごしょう》だから一人うっちゃっておいてくれとたのんだ。
とうとう機関《きかん》が運転を止めて、いかりづなはおかに投げられた。そしてわたしたちはロンドンに上陸《じょうりく》した。
わたしはイギリス語をごくわずかしか知らなかったが、マチアはガッソーの曲馬団《きょくばだん》でいっしょに働《はたら》いていたイギリス人から、たんとことばを教わっていた。
上陸するとすぐ巡査《じゅんさ》に向かって、リンカーン・スクエアへ行く道を聞いた。それはなかなか遠いらしかった。たびたびわたしたちは道に迷《まよ》ったと思った。けれどももう一度たずねてみて、やはり正しい方向に向かって歩いていることを知った。とうとうわたしたちはテンプル・バーに着いた。それから二、三歩行けばリンカーン・スクエアへ着くのであった。
いよいよグレッス・アンド・ガリー事務所《じむしょ》の戸口に立ったとき、わたしはずいぶんはげしく心臓《しんぞう》が鼓動《こどう》した。それでしばらくマチアに気の静《しず》まるまで待ってもらわねばならなかった。マチアが書記にわたしの名前と用事を述《の》べた。
わたしたちはすぐとこの事務所の主人であるグレッス氏《し》の私室《ししつ》へ通された。幸いにこの紳士《しんし》はフランス語を話すので、わたしは自身かれと語ることができた。かれはわたしに向かってこれまでの細かいことをいちいちたずねた。わたしの答えはまさしくわたしがかれのたずねる少年であることを確《たし》かめさせたので、かれはわたしに、ロンドンに住んでいるわたしの一家のあること、そしてさっそくそこへわたしを送りつけてやるということを話した。
「ぼくにはお父さんがあるんですか」とわたしは、やっと「お父さん」ということばを口に出した。
「ええ、お父さんばかりではなく、お母さんも、男のご
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