パリへ向けてたつこと、そして着いたらすぐにバルブレンを見つけて、せっかく少しでも早くわたしを見つけようとしている両親も喜《よろこ》ばせてやることを勧《すす》めた。わたしはかの女と五、六日ここに過《す》ごしたいと望《のぞ》んでいたが、でもかの女の言うことももっともだと思った。
わたしはしかし行くまえにリーズに会いに行かなければならない。それには運河《うんが》に沿《そ》って行ってパリへ行けるのだから、してできないことはなかった。リーズのおじさんは水門の番人をしていて、河岸《かし》の小屋に住んでいるのだから、そこへとまってかの女に会うことはできる。
わたしはその日一日バルブレンのおっかあとくらした。夕方わたしたちは、いまにわたしがお金持ちになったら、かの女になにをしてやろうかということを話し合った。かの女は欲《ほ》しい物をなんでも持たなければならない。わたしにお金ができれば、どんな望《のぞ》みだってかなえてやれないということはないであろう。
「でもおまえがびんぼうでいるあいだにくれた雌牛《めうし》は、お金持ちになったときくれられるどんな物よりもわたしにはずっとうれしいだろうよ」とかの女はほくほくしながら言った。
そのあくる日、好《す》きなバルブレンのおっかあに優《やさ》しいさようならを言ってから、わたしたちは運河《うんが》の岸についで歩き出した。
マチアはたいへん考えこんでいた。そのわけをわたしは知っていた。かれはわたしにお金持ちの両親ができることを悲しがっていた。それがわたしたちの友情《ゆうじょう》に変化《へんか》を起こすとでも思ったらしかった。わたしはかれに、そうなれば学校へ行って、いちばんえらい先生について音楽を勉強することができるのだからと言ったが、かれは悲しそうに頭をふった。わたしはかれが兄弟としていっしょのうちに住むようになること、わたしの両親もわたしの友だちのことだからそっくりわたし同様に愛《あい》してくれるだろうと思ったということを話したが、まだかれは首をふっていた。
しかしさしあたりわたしはまだそのお金持ちの両親の金を使うまでにならないので、通りすがりの村むらで、食べ物を買うお金を取らなければならなかった。それにリーズにおくり物を買ってやるお金も少しこしらえたかった。バルブレンのおっかあはあの雌牛《めうし》を、わたしがお金持ちになってからなにをもらったよりもずっとありがたいと言ったが、きっときっとリーズもこのおくり物と同じように考えるだろうと思った。わたしはかの女に人形をやろうと思った。幸い人形は雌牛《めうし》のように高くはなかった。わたしたちが通ったつぎの村で、わたしは美しい髪《かみ》の毛《け》と、青い目をしたかわいらしい人形をかの女のために買った。
運河《うんが》の岸を歩きながら、わたしはたびたびミリガン夫人《ふじん》と、アーサと、それからかれらの美しい小舟《こぶね》のことを思い出していた。その小舟に運河《うんが》の上で出会いはしないかと思っていたが、でもわたしたちはついにそれを見なかった。
とうとうある日の夕方、わたしたちはリーズの住んでいるうちを遠方から見る所まで来た。それは木のしげった中にあった。きりでかすんだ中にあるらしかった。大きな炉《ろ》の明かりに照《て》らされた窓《まど》を見ることもできた。だんだんとそばに近づくに従《したが》って、赤みを持った光が、わたしたちの通り道に投げられた。わたしの心臓《しんぞう》はとっとっと打った。わたしはかれらがそのうちの中で夕飯《ゆうめし》を食べている姿《すがた》を見ることができた。ドアと窓《まど》は閉《と》じられていたが、窓にはカーテンがなかったから、わたしは中をのぞきこんで、リーズがおばさんのそばにすわっているところを見た。わたしはマチアとカピに静《しず》かにするように合図をして、それから肩《かた》からハープを下ろして、それを地べたの上に置《お》いた。
「ああ、なるほど」とマチアがささやいた。「セレナードをやるか。なるほどうまい考えだ」
わたしは例《れい》のナポリ小唄《こうた》の第一|節《せつ》をひいた。声でさとられてはいけないと思って歌は歌わなかった。わたしはひきながら、リーズのほうを見た。かの女は急いで顔を上げたが、その目はかがやいていた。
それからわたしは歌い始めた。かの女はいすからとび下りて、戸口へかけて来た。まもなくかの女はわたしのうでにだかれていた。
カトリーヌおばさんがそれから出て来て、わたしたちを夕飯《ゆうめし》に呼《よ》んでくれた。リーズは急いで食卓《しょくたく》の上におさらを二つならべた。
「おいやでなければ」とわたしは言った。「もう一|枚《まい》おさらを出してください。ぼくたちはもう一人かわいらしいお友だちを連《つ》れて来
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