できた。あのおそろしい経験《けいけん》をおたがいにし合った仲間《なかま》が一つに結《むす》ばれた。ガスパールおじさんと「先生」は、とりわけたいそうわたしが好《す》きになった。
技師《ぎし》も災難《さいなん》をともにはしなかったが、自分が骨《ほね》を折《お》って危《あや》ういところを救《すく》い出した子どもということで、わたしに親しんだ。かれはわたしをそのうちへ招待《しょうたい》した。わたしはかれのむすめに坑《こう》の中で起こったことを残《のこ》らず話してやらなければならなかった。
だれもわたしをヴァルセへ引き止めたがった。技師《ぎし》は、わたしが望《のぞ》むなら、事務所《じむしょ》で仕事を見つけてやると言った。ガスパールおじさんも鉱山《こうざん》でしじゅうの仕事をこしらえようと言った。かれはわたしが坑《こう》へ帰ることがごく自然《しぜん》なように思っているらしかった。かれ自身はもうまもなく、毎日《まいにち》危険《きけん》をおかすことに慣《な》れた人の見せるようなむとんちゃくさで、また坑《こう》へはいって行った。でもわたしはもうそこへ帰って行く気はしなかった。鉱山《こうざん》はひじょうにおもしろかった。それを見たということはたいへんゆかいであったけれど、そこへ帰って行こうとはゆめにも思わなかった。
それよりもわたしはいつも頭の上に大空を、それは雪をいっぱい持った大空でも、いただいていたかった。野外の生活がわたしにはずっと性《しょう》に合っていた。そう言ってわたしはかれらに話した。だれもおどろいていた。とりわけ「先生」がおどろいていた。カロリーはとちゅうで出会うと、わたしを「やあ、ひよっこ」と呼《よ》んだ。
みんながわたしをヴァルセに止めたがって、いろいろ勧《すす》めているあいだ、マチアはひどくぼんやりして考えこむようになった。そのわけをたずねると、かれはいつも、なになんでもないと打ち消していた。
いよいよ三日のうちにここを立つことをわたしがかれに話したとき、かれは初《はじ》めてこのごろふさいでいたわけを語った。
「ああ、ぼくはきみがここにこのまま残《のこ》って、ぼくを捨《す》てるだろうと思ったから」とかれは言った。
わたしはかれをちょいと打った。それはわたしを疑《うたが》わないように、訓戒《くんかい》してやるためであった。
マチアはいまではもう自分で自分の身を立てることができるようになっていた。わたしが鉱山《こうざん》にはいっていたあいだ、かれは十八フランもうけた。かれはこのたいそうな金をわたしにわたすとき、ひどく得意《とくい》であった。なぜならわたしたちがまえから持っている百二十八フランに加《くわ》えれば、残《のこ》らずで百四十六フランになるからであった。例《れい》の「王子さまの雌牛《めうし》」はもう四フランあれば買えるのであった。
前へ進め、子どもたち。
荷物《にもつ》を背中《せなか》へ結《むす》びつけてわたしたちは出発した。カピが喜《よろこ》んで、ほえて、砂《すな》の中を転《ころ》げていた。
マチアは、雌牛《めうし》を買うまでにもう少しお金《かね》をこしらえようと言った。金が多いだけいい雌牛が買えるし、雌牛がよければ、よけいバルブレンのおっかあがうれしがるであろう。
パリからヴァルセに来るとちゅう、わたしはマチアに読書と、初歩《しょほ》の楽典《がくてん》を授《さず》け始めた。この課業《かぎょう》を今度も続《つづ》けてした。わたしもむろんいい先生ではなかったし、マチアもあまりいい生徒《せいと》であるはずがなかった。この課業は成功《せいこう》ではなかった。たびたびわたしはおこって、ばたんと本を閉《と》じながら、かれに、「おまえはばかだ」と言った。
「それはほんとうだよ」とかれはにこにこしながら言った。「ぼくの頭はぶつとやわらかいそうだ。ガロフォリがそれを見つけたよ」
こう言われると、どうおこっていられよう。わたしは笑《わら》いだしてまた課業《かぎょう》を続《つづ》けた。けれどもほかのことはとにかく、音楽となると、初《はじ》めからかれはびっくりするような進歩をした。おしまいにはもうわたしの手におえないことを白状《はくじょう》しなければならなくなったほど、かれはむずかしい質問《しつもん》を出して、わたしを当惑《とうわく》させた。でもこの白状はわたしをひどくしょげさした。わたしはひじょうに高慢《こうまん》な先生であった。だから生徒《せいと》の質問に答えることができないのが情《なさ》けなかった。しかもかれはけっしてわたしを容赦《ようしゃ》しはしなかった。
「ぼくはほんとうの先生に教わろう」とかれは言った。「そうしてぼく、質問を残《のこ》らず聞いて来よう」
「なぜ、きみはぼくが鉱山《こうざん》にいるうち、ほんとう
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