れでこれからは……」署長《しょちょう》がたずねた。
「わたくしどもでこの子を引き取ろうと思います」とわたしの新しい友人がことばをはさんだ。
「それをお許《ゆる》しくださいますならば」
署長《しょちょう》は喜《よろこ》んでわたしをかれの手に委任《いにん》すると言った。そのうえその親切な心がけをほめた。
自分のことはそれでいいとして、今度は親方のことを言わなければならなかった。でもまったくなんにも知らないのが事実であった。
ただ一つわからないことは、最後《さいご》の興行《こうぎょう》のとき、どこかの夫人《ふじん》が天才《てんさい》だと言っておどろいたこと、それからガロフォリがむかしの名前をどうとか言いだして、かれをおどしたことであった。
けれど親方があれほどかくしていたことを死んだのちにあばき立てることはいらない。でもそうは思いながら、事に慣《な》れた警官《けいかん》の前で子どもがかくしおおせるものではなかった。かれらはわけなくわなにかけて、かくしたいと思うことをずんずん言わせてしまうのである。わたしの場合がやはりそれであった。
署長《しょちょう》はさっそくわたしから、ガロフォリについてなにもかもかぎ出してしまった。
「この子をガロフォリというやつの所へ連《つ》れて行くよりほかにしかたがない」と、かれは部下の一人に言った。「一度この子の言うルールシーヌ街《まち》へ連《つ》れて出れば、すぐその家を見つけるよ。きみはこの子といっしょに行って、その男を尋問《じんもん》してくれたまえ」
わたしたち三人――巡査《じゅんさ》とお父さんとわたしは、いっしょに出かけた。
署長《しょちょう》が言ったように、わたしはわけなくその家を見つけた。わたしたちは四階へ上がって行った。マチアはもう見えなかった。警官《けいかん》の顔を見て、それから見覚《みおぼ》えのあるわたしを見つけると、ガロフォリは青くなって、ぎょっとしたようであった。けれどみんなの来たのは、ヴィタリスのことをたずねるためであったことがわかると、かれはすぐに落ち着いた。
「やれやれ、じいさん、死にましたか」とかれは言った。
「おまえはその老人《ろうじん》を知っているだろう」
「はい」
「じゃああの老人について知っていることを残《のこ》らず話してくれ」
「なんでもないことでございます。あの男の名前はヴィタリスではございま
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