なかろうよ。おまえはねどこも、食べ物も得《え》られるし、自分で働《はたら》いてそれを得たという満足《まんぞく》もあろうというものだ。それでおまえがわしが考えているようにいい子どもであるなら、同じうちの者にして、いっしょにくらしてゆきたいとも思っているのだよ」
リーズがふり返って、なみだの中からわたしをながめてにっこりした。
わたしはいま聞いたことをほとんど信《しん》ずることができなかった。わたしはただ植木屋をながめていた。
するとリーズが、父親のひざからとんで来て、わたしの手を取った。
「うん、どうだね、おまえ」と父親がたずねた。
家族だ。わたしは家族を持つようになった。わたしは独《ひと》りぼっちではなくなるのだ。いいゆめよ。今度は消えずにいてくれ。
わたしが四、五年いっしょにくらして、ほとんど父親のようであった人は死んだ。なつかしい、優《やさ》しいカピは、わたしがあれほど愛《あい》した仲間《なかま》でもあり友だちでもあったカピは、いなくなった。わたしはなにもかもおしまいになったと思っていた。ところへこのいい人がわたしを自分の家族にしてやると言ってくれた。
わたしのために新しい生涯《しょうがい》がまた始まるのだ。かれはわたしに食べ物と宿《やど》をあたえると言ったが、それよりももっとわたしにうれしかったのは、このうちの中の生活がやはりわたしのものになるということであった。この男の子たちはわたしの兄弟になるであろう。このかわいらしいリーズはわたしの妹になるであろう。わたしはもうみなし子ではなくなるであろう。わたしの子どもらしいゆめの中で、いつかわたしも父親と母親を見つけるかもしれないと思ったこともあった。けれど兄弟や妹を持とうとは考えなかった。それがわたしにあたえられようとしているのだ。わたしはさっそくハープの負い皮を肩《かた》からはずした。
「おお、それでこの子の返事がわかった」とお父さんが笑《わら》いながら言った。「わたしはおまえの顔つきで、どんなにおまえが喜《よろこ》んでいるかわかる。もうなにも言うことは要《い》らない。そのハープをかべにおかけ。いつかおまえがここにあきたら、またそれを下ろして好《す》きなほうへ行くがよろしい。けれどおまえもつばめのように、とび出して行く季節《きせつ》を選《えら》ばなければならない。まあ、冬のさ中に出て行くのだけはおよし
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