かいな、あんなに親切な、あれほど友人としてたのもしいかれに会うことにただ一つの楽しい希望《きぼう》を持った。
 七時すこしまえにわたしはあわただしいほえ声を聞いた。するとかげからカピがとび出した。かれはわたしのひざにとびついて、やわらかいしめった舌《した》でなめた。わたしはかれを両うでにだきしめて、その冷《つめ》たい鼻にキッスした。マチアがまもなく姿《すがた》を現《あらわ》した。二言三言でわたしはバルブレンの死んだこと、自分の家族を見つける望《のぞ》みのなくなったことを告《つ》げた。
 するとかれはわたしの欲《ほっ》していたありったけの同情《どうじょう》をわたしに注《そそ》いだ。かれはどうにかしてわたしをなぐさめようと努力《どりょく》した。そして失望《しつぼう》してはいけないと言った。かれはいっしょになって、まじめに両親を探《さが》し出すことのできるようにしようと、心からちかった。
 わたしたちはオテル・デュ・カンタルへ帰った。


     捜索《そうさく》

 そのあくる朝バルブレンのおっかあの所へ手紙を出して、不幸《ふこう》のおくやみを言って、かの女の夫《おっと》の亡《な》くなるまえに、なにか便《たよ》りがあったかたずねてやった。
 その返事にかの女は、夫が病院から手紙を寄《よ》こして、もしよくならなかったら、ロンドンのリンカーン・スクエアで、グレッス・アンド・ガリーといううちへあてて手紙を出すように言って来たことを告《つ》げた。それはわたしを探《さが》している弁護士《べんごし》であった。なおかれはかの女に向かって、自分が確《たし》かに死んだと決まるまでは、手をつけてはならないとことづけて来たそうである。
「じゃあぼくたちはロンドンへ行かなければならない」とわたしが手紙を読んでしまうとマチアが言った。この手紙は村のぼうさんが代筆《だいひつ》をしたものであった。「その弁護士《べんごし》がイギリス人だというなら、きみの両親もイギリス人であることがわかる」
「おお、ぼくはそれよりもリーズやなんかと同じ国の人間でありたい。だがぼくがイギリス人なら、ミリガン夫人《ふじん》やアーサと同じことになるのだ」
「ぼくはきみがイタリア人であればよかったと思う」とマチアが言った。
 それから数分間のうちにわたしたちの荷物はすっかり荷作りができて、わたしたちは出発した。
 パリからボ
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