てまだかれが悲しそうにしているのか、わたしはわからなかった。とうとうわたしたちはパリの大門に着いたとき、かれはいまでもどんなにガロフォリをこわがっているか、もしあの男に会ったらまたつかまえられるにちがいないという話をした。
「きみはバルブレンをどんなにこわがっていたか。それを思ったら、どんなにぼくがガロフォリをこわがっているかわかるだろう。あの男が牢屋《ろうや》から出ていればきっとぼくをつかまえるにちがいない。ああ、この情《なさ》けない頭、かわいそうな頭、あの男はどんなにそれをひどくぶったことだろう。そうすればあの男はきっとぼくたちを引き分けてしまう。むろんあの人はきみをも子分にして使いたいであろうが、それをきみには無理《むり》にも強《し》いることができないが、ぽくに対してはそうする権利《けんり》があるのだ。あの人はぼくのおじだからね」
 わたしはガロフォリのことはなにも考えていなかった。
 わたしはマチアと相談《そうだん》をして、バルブレンのおっかあがそこへ行けば、バルブレンを見つけるかもしれないと言ったいろいろの場所へ行くことにした。それからわたしはリュー・ムッフタールへ行こう。それからノートル・ダーム寺の前でわたしたちは会うことにしよう。
 わたしたちはもう二度と会うことがないようなさわぎをして別《わか》れた。わたしはこちらの方角へ、マチアは向こうの方角へ向かった。わたしはバルブレンが先《せん》に住んでいた場所の名をいろいろ紙に書きつけておいた。それを一つ、一つ、訪《たず》ねて行った。ある木賃宿《きちんやど》では、かれは四年前そこにいたが、それからはいなくなったと言った。その宿屋《やどや》の亭主《ていしゅ》は、あいつには一週間の宿料《しゅくりょう》の貸《か》しがあるから、あの悪党《あくとう》、どうかしてつかまえてやりたいと言っていた。
 わたしはすっかり気落ちがしていた。もうわたしの訪《たず》ねる所は一か所しか残《のこ》っていなかった。それはあの料理屋《りょうりや》であった。そのうちをやっている男は、もう長いあいだあの男の顔を見ないといったが、ちょうど食卓《しょくたく》にすわって食べていたお客の一人が声をかけて、うん、あの男なら、近ごろオテル・デュ・カンタルにとまっていたと言ってくれた。
 オテル・デュ・カンタルへ行くまえにわたしはガロフォリのうちへ行って、あ
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