》してもらわなければならない。わたしたちの生まれ合わせは、ほかのあまやかされて育《そだ》った子どもたちが、あんまり多いキッスにへいこうしてそれをさけなければならないのとは、大ちがいであった。
そのあくる朝、わたしたちは太陽といっしょに起きて、シャヴァノン村に向かって出発した。わたしはマチアがあたえてくれた助力に、どれほど感謝《かんしゃ》していたであろう。かれなしには、わたしはけっしてこんな大金をためることはできなかった。わたしはかれに雌牛《めうし》を引いて行く楽しみをあたえようと思った。そこでかれはたいへん得意《とくい》らしく雌牛のつなを引いて行くと、わたしはあとからついて行った。かの女はひじょうにりっぱに見えた。それは大様《おおよう》にすこしゆれながら、自分で自分の値打《ねう》ちを知っているけものらしく歩いていた。わたしは雌牛をくたびれさせないようにしたいと思ったので、その晩《ばん》おそくシャヴァノンに着くことはよして、それよりもあしたの朝早く行く計画にした。ところがそのうちにこういうことが起こった。
わたしはその晩《ばん》、むかし初《はじ》めてヴィタリス親方ととまって、カピが悲しそうなわたしを見てそばへ来てねてくれた、あの村にとまることにした。
この村にはいるまえにわたしたちはきれいな青い草の生えた所に来た。荷物をほうり出してわたしたちはそこで休むことにした。わたしたちは雌牛《めうし》をみぞの中に放してやった。初《はじ》めはなわで引いていようと思ったが、この雌牛はたいへんすなおで、草を食べることによく慣《な》れているようであったので、わたしはしばらくつなを牛の角に巻《ま》きつけて、そのそばにこしをかけて晩飯《ばんめし》を食べ始めた。もちろんわたしたちは雌牛よりずっとまえに食べてしまった。そこでさんざん雌牛を感心してながめたあとで、これからなにをしようというあてもないので、わたしたちはしばらく遊んでいた。それがすんでも牛はまだ食べていた。わたしがそばへ行くと、雌牛《めうし》は草の中に固《かた》く首をつっこんでいて、まだ腹《はら》が減《へ》っているというようであった。
「すこし待ってやりたまえ」とマチアが言った。
「だってきみ、雌牛は一日だって食べているんだぜ」とわたしは答えた。
「まあ、しばらく待ってやりたまえ」
わたしたちはもう背嚢《はいのう》と楽器《が
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