がさけんだ。
「じゃあ、おまえは良心《りょうしん》に罪《つみ》をしょわせたまま神様の前に出るつもりか」と先生がさけんだ。「あの男に懺悔《ざんげ》させろ」
「おれは懺悔する、おれは懺悔する」と大力《たいりき》のコンプルーが、子どもよりもっといくじなく泣《な》いた。
「水の中にほうりこめ。水の中にほうりこめ」とパージュとベルグヌーが、「先生」 の後ろに丸《まる》くなっていた罪人《ざいにん》にとびかかって行きそうにした。
「おまえたち、この男を水の中にほうりこみたいなら、おれもいっしょにほうりこめ」
「ううん、ううん」やっとかれらは水の中に罪人をほうりこむだけはしないことにしたが、それには一つの条件《じょうけん》がついた。罪人はすみっこにおしやられて、だれも口をきいてもいけないし、かまってもやるまいというのだった。
「そうだ、それが相当だ」と「先生」が言った。「それが公平な裁《さば》きだ」
「先生」のことばはコンプルーに下された判決《はんけつ》のように思われたので、それがすむとわたしたちはみんないっしょに、できるだけ遠くはなれて、この悪い事をした人間との間に空き地をこしらえた。数時間のあいだ、かれは悲しみに打たれて、絶《た》えずくちびるを動かしながら、こうつぶやいているように思われた。
「おれはくい改《あらた》める。おれはくい改める」
 やがてパージュとベルグヌーがさけびだした。
「もうおそいや、もうおそいや。きさまはいまこわくなったのでくい改めるのだ。きさまは一年まえにくい改めなければならなかったのだ」
 かれは苦しそうに、ため息をついていた。けれどまだくり返していた。
「おれはくい改《あらた》める。おれはくい改める」
 かれはひどい熱《ねつ》にかかっていた。かれの全身はふるえて、歯はがたがた鳴っていた。
「おれはのどがかわいた」とかれは言った。「その長ぐつを貸《か》してくれ」
 もう長ぐつに水はなかった。わたしは立ち上がって取りに行こうとした。けれどそれを見つけたパージュがわたしを呼《よ》び止めた。同時にガスパールおじさんがわたしの手をおさえた。
「もうあいつにはかまわないとやくそくしたのだ」とかれは言った。
 しばらくのあいだ、コンプルーはのどがかわくと言い続《つづ》けた。わたしたちがなにも飲み物をくれないとみて、かれは自分で立ち上がって、水のほうへ行きかけた。

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