って休むとしよう」
ところがこの村には一けんも宿屋《やどや》というものはなかった。当たり前の家ではじいさんのこじきの、しかも子どもに三びきの犬まで引き連《つ》れて、ぬれねずみになった同勢《どうぜい》をとめようという者はなかった。
「うちは宿屋《やどや》じゃないよ」
こう言ってどこでも戸を立てきった。わたしたちは一けん一けん聞いて歩いて、一けん一けん断《ことわ》られた。
これから四マイル(約六キロ)ユッセルまで一休みもしないで行かなければならないのか。暗さは暗し、雨はいよいよ冷《つめ》たく骨身《ほねみ》に通った。ああ、バルブレンのおっかあのうちがこいしい。
やっとのことで一けんの百姓家《ひゃくしょうや》がいくらか親切があって、わたしたちを納屋《なや》にとめることを承知《しょうち》してくれた。でもねるだけはねても、明かりをつけることはならないという言いわたしであった。
「おまえさん、マッチを出しなさい。あしたたつとき返してあげるから」とその百姓家《ひゃくしょうや》の主人はヴィタリス老人《ろうじん》に言った。
それでもとにかく、風雨を防《ふせ》ぐ屋根だけはできたのであった。
老人
前へ
次へ
全320ページ中69ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
楠山 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング