び親方はかけ物の下に手をやって、ジョリクールにさわっていたが、このあわれな小ざるはいっこうに温まってこなかった。わたしがのぞきこんでみると、かれのがたがた身ぶるいをする音が聞こえた。
 かれの血管《けっかん》の中の血がこおっていたのである。
「とにかく村へ行かなければならない。さもないとジョリクールは死ぬだろう。すぐたつことにしよう」
 毛布《もうふ》はよく温まっていた。それで小ざるはその中にくるまれて、親方のチョッキの下のすぐ胸《むね》に当たる所へ入れられた。わたしたちの仕度ができた。
 小屋を出て行こうとして、親方はそこらを見回しながら言った。
「この小屋にはずいぶん高い宿代《やどだい》をはらった」
 こう言ったかれの声はふるえた。
 かれは先に立って行った。わたしはその足あとに続《つづ》いた。わたしたちが二、三|間《げん》(四〜六メートル)行くと、カピを呼《よ》んでやらなければならなかった。かわいそうな犬。かれは小屋の外に立ったまま、いつまでも鼻を、仲間《なかま》がおおかみにとられて行った場所に向けていた。
 大通りへ出て十分間ほど行くと、とちゅうで馬車に会った。その御者《ぎょし
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