した」
かれはそれを信《しん》じないように微笑《びしょう》した。
「言ってみましょうか」
「できるもんか」
「やってみましょうか。本を持っていらっしゃい」
かれはまた本を取り上げた。わたしはその話を暗唱《あんしょう》し始めた。わたしはほとんど完全《かんぜん》に覚《おぼ》えていた。
「やあきみ、知っているの」
「そんなによくは知りません。けれどこのつぎのときまでには、一つもちがえずに言えるでしょう」
「どうして覚《おぼ》えたの」
「あなたのお母さまが読んでいらっしゃるあいだ、ぼくは聞いていました。ただいっしょうけんめいに、そこらの物を見向したりなんぞせずに、聞いていたのです」
かれは顔を赤くした、そして目をそらした。
「ぼくもきみのようにやってみよう」とかれは言った。「けれど一々のことばをどうしてそう覚《おぼ》えたか、言って聞かしてくれたまえ」
わたしはそれをどう説明《せつめい》していいかわからなかった。そんなことを考えてみたことはなかった。けれどやれるだけは説明してみた。
「このお話はなんの話でしょう」とわたしは言った。「ひつじのことでしょう。ねえ、だからなにより先にぼくはひつ
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