をひくことを覚《おぼ》えたし、なかなかじょうずに歌も歌った。とりわけわたしはナポリ小唄《こうた》を覚《おぼ》えて、それがいつも大かっさいを博《はく》した。けれどもきょうだけは見物がわたしの歌をほめるために来たのでないことはわかっていた。
きのう巡査《じゅんさ》との争論《そうろん》を見物した人たちは残《のこ》らず出て来たし、おまけに友だちまで引《ひ》っ張《ぱ》って来た。いったいツールーズの土地でも巡査はきらわれ者になっていた。それで公衆《こうしゅう》はあのイタリア人のじいさんがどんなふうにやるか。「閣下《かっか》、いずれ明日」と言った捨《す》てぜりふの意味がなんであったか、それを知りたがっていたのである。
それで見物の中には、わたしがジョリクールと二人だけなのを見て、わたしの歌っている最中《さいちゅう》口を入れて、イタリアのじいさんは来るのかと言ってたずねる者もあった。
わたしはうなずいた。
親方は来ないで、先に巡査《じゅんさ》がやって来た。ジョリクールがまっ先にかれを見つけた。
かれはさっそくげんこつをこしの上に当てて、こっけいないばりくさった様子で、大またに歩き回った。群衆
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