手を上げた。リカルドはふり上げたむちをひかえた。わたしはガロフォリがさすがに情《なさ》けを見せるのだと思ったが、そうではなかった。
「きさまらの泣き声を聞くのはおれにはどのくらいつらいと思う」とかれはねこなで声で犠牲《ぎせい》に向かって言いかけた。「むちがきさまらの皮をさくたんびにさけび声がおれのはらわたをつき破《やぶ》るのだ。ちっとはおれの苦しい心も察《さっ》して、気のどくに思うがいい。だからこれから泣《な》き声《ごえ》を立てるたんびによけいに一つむちをくれることにするからそう思え。これもきさまらが悪いのだ。きさまらがおれに対してちっとでも情《なさ》けや恩《おん》を知っているなら、だまっていろ。さあ、やれ、リカルド」
 リカルドがむちをふり上げた。皮ひもは犠牲《ぎせい》の背中《せなか》でくるくる回った。
「おっかあ。おっかあ」とその子どもがさけんだ。
 ありがたい。わたしはこのうえこのおそろしい呵責《かしゃく》を見ずにすんだ。なぜといってこのしゅんかんドアがあいて、ヴィタリス親方がはいって来たからである。
 人目でかれはなにもかも了解《りょうかい》した。かれははしご段《だん》を上がりながらさけび声を聞いたので、すぐリカルドのそばにかけ寄《よ》って、むちを手からうばった。それからガロフォリのほうへくるりと向いて、うで組みをしたままかれの前につっ立った。
 これはいかにもとっさのあいだに起こったので、しばらくはガロフォリもぽかんとしていた。けれどもすぐ気を取り直しておだやかに言った。
「どうもおそろしいようじゃないか。なにね、あの子どもは気がちがっているのだ」
「はずかしくはないか」ヴィタリスがさけんだ。
「それ見ろ、わたしもそういうことだ」とガロフォリがつぶやいた。
「よせ」とヴィタリス親方が命令《めいれい》した。「とぼけるなよ。おまえのことだ。子どもではない。こんな手向かいのできないかわいそうない子どもらをいじめるというのは、なんというひきょうなやり方だ」
「この老《お》いぼれめ。よけいな世話を焼《や》くな」とガロフォリが急に調子を変《か》えてさけんだ。
「警察《けいさつ》ものだぞ」とヴィタリスが反抗《はんこう》した。
「なに、きさま、警察でおどすのか」とガロフォリがさけんだ。
「そうだ」と、わたしの親方は乱暴《らんぼう》な相手《あいて》の気勢《きせい》にはちっと
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