《ぼう》さんたちはそこで相談《そうだん》して、
「困《こま》ったものだな。うっちゃっておくわけにもいかない。仮《かり》にも観音《かんのん》さまにお願《ねが》い申《もう》しているというのだから、せめて食《た》べ物《もの》だけはやることにしよう。」
といって、みんなで代《か》わる代《が》わる、食《た》べ物《もの》を持《も》って行ってやりました。若者《わかもの》はそれをもらって食《た》べながら、とうとう三七二十一|日《にち》の間《あいだ》、同《おな》じ所《ところ》につっ伏《ぷ》したまま、一生懸命《いっしょうけんめい》お祈《いの》りをしていました。
いよいよ二十一|日《にち》のおこもりをすませた明《あ》け方《がた》に、若者《わかもの》はうとうとしながら、夢《ゆめ》を見《み》ました。それは観音《かんのん》さまのまつられているお帳《とばり》の中から、一人《ひとり》のおじいさんが出《で》てきて、
「お前《まえ》がこの世《よ》で運《うん》の悪《わる》いのは、みんな前《まえ》の世《よ》で悪《わる》いことをしたむくいなのだ。それを思《おも》わないで、観音《かんのん》さまにぐちをいうのは間違《まちが》っている。けれども観音《かんのん》さまはかわいそうにおぼしめして、少《すこ》しのことならしてやろうとおっしゃるのだ。それでとにかく早《はや》くここを出《で》ていくがいい。ここを出《で》たら、いちばん先《さき》に手《て》にさわったものを拾《ひろ》って、それはどんなにつまらないものでもだいじに持《も》っているのだ。そうすると今《いま》に運《うん》が開《ひら》けてくる。さあそれでは早《はや》く出《で》ていくがいい。」
と追《お》い立《た》てるようにいわれたと思《おも》うと、ふと目《め》を覚《さ》ましました。
若者《わかもの》はのそのそ起《お》き上《あ》がって、いつものとおり坊《ぼう》さんの所《ところ》へ行《い》って、食《た》べ物《もの》をもらって食《た》べると、すぐにお寺《てら》を出《で》ていきました。
するとお寺《てら》の大門《おおもん》をまたぐひょうしに、若者《わかもの》はひょいとけつまずいて、前《まえ》へのめりました。そしてころんだはずみに、見《み》ると、路《みち》の上に落《お》ちていた一|本《ぽん》のわらを、思《おも》わず手につかんでいました。
若者《わかもの》は、
「何《なん
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