まんでかみつぶしてやろうか。」
「ちびやい。ちびやい。」
 と口々《くちぐち》にいって、からかいました。一寸法師《いっすんぼうし》はだまって、にこにこしていました。

     二

 一寸法師《いっすんぼうし》は十六になりました。ある日|一寸法師《いっすんぼうし》は、おとうさんとおかあさんの前《まえ》へ出て、
「どうかわたくしにお暇《ひま》を下《くだ》さい。」
 といいました。おとうさんはびっくりして、
「なぜそんなことをいうのだ。」
 と聞《き》きました。一寸法師《いっすんぼうし》はとくいらしい顔《かお》をして、
「これから京都《きょうと》へ上《のぼ》ろうと思《おも》います。」
 といいました。
「京都《きょうと》へ上《のぼ》ってどうするつもりだ。」
「京都《きょうと》は天子《てんし》さまのいらっしゃる日本一《にっぽんいち》の都《みやこ》ですし、おもしろいしごとがたくさんあります。わたくしはそこへ行って、運《うん》だめしをしてみようと思《おも》います。」
 そう聞《き》くとおとうさんはうなずいて、
「よしよし、それなら行っておいで。」
 と許《ゆる》して下《くだ》さいました。
 一寸法師《いっすんぼうし》は大《たい》へんよろこんで、さっそく旅《たび》の支度《したく》にかかりました。まずおかあさんにぬい針《ばり》を一|本《ぽん》頂《いただ》いて、麦《むぎ》わらで柄《え》とさやをこしらえて、刀《かたな》にして腰《こし》にさしました。それから新《あたら》しいおわんのお舟《ふね》に、新《あたら》しいおはしのかいを添《そ》えて、住吉《すみよし》の浜《はま》から舟出《ふなで》をしました。おとうさんとおかあさんは浜《はま》べまで見送《みおく》りに立《た》って下《くだ》さいました。
「おとうさん、おかあさん、では行ってまいります。」
 と一寸法師《いっすんぼうし》がいって、舟《ふね》をこぎ出《だ》しますと、おとうさんとおかあさんは、
「どうか達者《たっしゃ》で、出世《しゅっせ》をしておくれ。」
 といいました。
「ええ、きっと出世《しゅっせ》をいたします。」
 と、一寸法師《いっすんぼうし》はこたえました。
 おわんの舟《ふね》は毎日《まいにち》少《すこ》しずつ淀川《よどがわ》を上《のぼ》って行きました。しかし舟《ふね》が小《ちい》さいので、少《すこ》し風《かぜ》が強《つよ》く
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