ぬ》け出《だ》したかと思《おも》って、びっくりして、
「大《たい》へん、大《たい》へん。」
 と、後《あと》をも見《み》ずに逃《に》げ出《だ》しました。するともう一|匹《ぴき》の鬼《おに》も、
「こりやかなわん。逃《に》げろ、逃《に》げろ。」
 と後《あと》を追《お》って行きました。
「はッは、弱虫《よわむし》め。」
 と、一寸法師《いっすんぼうし》は、逃《に》げて行く鬼《おに》のうしろ姿《すがた》を気味《きみ》よさそうにながめて、
「やれやれ、とんだことでした。」
 といいながら、そこに倒《たお》れているお姫《ひめ》さまを抱《だ》き起《お》こして、しんせつに介抱《かいほう》しました。お姫《ひめ》さまがすっかり正気《しょうき》がついて、立《た》ち上《あ》がろうとしますと、すそからころころと小《ちい》さな槌《つち》がころげ落《お》ちました。
「おや、ここにこんなものが。」
 と、お姫《ひめ》さまがそれを拾《ひろ》ってお見《み》せになりました。
 一寸法師《いっすんぼうし》はその槌《つち》を手に持《も》って、
「これは鬼《おに》の忘《わす》れて行った打《う》ち出《で》の小槌《こづち》です。これを振《ふ》れば、何《なん》でもほしいと思《おも》うものが出《で》てきます。ごらんなさい、今《いま》ここでわたしの背《せい》を打《う》ち出《だ》してお目にかけますから。」
 こういって、一寸法師《いっすんぼうし》は、打《う》ち出《で》の小槌《こづち》を振《ふ》り上《あ》げて、
「一寸法師《いっすんぼうし》よ、大きくなれ。あたり前《まえ》の背《せい》になれ。」
 といいながら、一|度《ど》振《ふ》りますと背《せい》が一|尺《しゃく》のび、二|度《ど》振《ふ》りますと三|尺《じゃく》のび、三|度《ど》めには六|尺《しゃく》に近《ちか》いりっぱな大男《おおおとこ》になりました。
 お姫《ひめ》さまはそのたんびに目《め》をまるくして、
「まあ、まあ。」
 といっておいでになりました。
 一寸法師《いっすんぼうし》は大きくなったので、もううれしくってうれしくって、立《た》ったりしゃがんだり、うしろを振《ふ》り向《む》いたり、前《まえ》を見《み》たり、自分《じぶん》で自分《じぶん》の体《からだ》をめずらしそうにながめていましたが、一通《ひととお》りながめてしまうと、急《きゅう》に三日三晩《みっか
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