いちうなずいて聞《き》きながら、せっせと糸車《いとぐるま》を回《まわ》していました。そのうちだんだん夜《よ》が更《ふ》けるに従《したが》って、たださえあばら家《や》のことですから、外《そと》の冷《つめ》たい風《かぜ》が遠慮《えんりょ》なく方々《ほうぼう》から入《はい》り込《こ》んで、しんしんと夜寒《よさむ》が身《み》にしみます。けれどあいにくなことには、炉《ろ》の方《ほう》の火《ひ》がだんだん心細《こころぼそ》くなって、ありったけのまきはとうに燃《も》やしつくしてしまいました。
おばあさんはふと坊《ぼう》さんの寒《さむ》そうにふるえているのを見《み》つけて、
「おやおや、まきがみんなになりましたか。お客《きゃく》さまがあると知《し》ったらもっとたくさん取《と》っておけばよかったものを、気《き》のつかないことをしました。どれどれ、ちょっと裏《うら》の山へ行ってまきを取《と》って来《き》ますから、お坊《ぼう》さま、しばらく退屈《たいくつ》でもお留守番《るすばん》をお頼《たの》み申《もう》します。」
こういっておばあさんは気軽《きがる》に出て行こうとしました。
すると坊《ぼう》さんはたいそう気《き》の毒《どく》がって、
「いやいや、この夜更《よふ》けにそんな御苦労《ごくろう》をかけてはすみません。何《なん》ならわたしが一走《ひとはし》り行って取《と》って来《き》ましょう。」
といいますと、おばあさんは手をふって、
「どうして、とんでもない。旅《たび》の人に分《わ》かるものではない。まあまあ、何《なん》にもごちそうのない一つ家《や》のことだから、せめてたき火《び》でもごちそうのうちだと思《おも》ってもらいましょう。」
といいいい出かけて行きましたが、何《なん》と思《おも》ったのか戻《もど》って来《き》て、
「その代《か》わりお坊《ぼう》さま、しっかり頼《たの》んでおきますがね、わたしが帰《かえ》ってくるまで、あなたはそこにじっと座《すわ》っていて、どこへも動《うご》かないで下《くだ》さいよ。うっかり動《うご》いて、次《つぎ》の間《ま》をのぞいたりなんぞしてはいけませんよ。」
とくり返《かえ》し、くり返《かえ》し、念《ねん》を押《お》しました。
「どういうわけだか知《し》らないが、むろん用《よう》もないのに、人の家《うち》の中なんぞをかってにのぞいたりなんぞしませんから、安心《あんしん》して下《くだ》さい。」
と坊《ぼう》さんもいいました。
それでおばあさんも安心《あんしん》したらしく、そのまま出ていきました。
二
さておばあさんが出て行ってしまうと、坊《ぼう》さんはただ一人《ひとり》、しばらくはつくねんと炉端《ろばた》に座《すわ》ったままおばあさんの帰《かえ》りを待《ま》っていましたが、じき帰《かえ》ると思《おも》ったおばあさんはなかなか帰《かえ》って来《き》ません。何《なに》しろ西《にし》も東《ひがし》も分《わ》からない原中《はらなか》の一|軒家《けんや》に一人《ひとり》ぼっちとり残《のこ》されたのですから、心細《こころぼそ》さも心細《こころぼそ》いし、だんだん心配《しんぱい》になってきました。何《なん》でも安達《あだち》が原《はら》の黒塚《くろづか》には鬼《おに》が住《す》んでいて人を取《と》って食《く》うそうだなどという、旅《たび》の間《あいだ》にふと小耳《こみみ》にはさんだうわさを急《きゅう》に思《おも》い出《だ》すと、体中《からだじゅう》の毛穴《けあな》がぞっと一|時《じ》に立《た》つように思《おも》いました。そういえばこんな寂《さび》しい原中《はらなか》におばあさんが一人《ひとり》住《す》んでいるというのもおかしいし、さっき出がけに、妙《みょう》なことをいって度々《たびたび》念《ねん》を押《お》して行ったが、もしやこの家《うち》が鬼《おに》のすみかなのではないかしらん。いったい「見《み》るな。」といった次《つぎ》の間《ま》には何《なに》があるのか知《し》らん。こう思《おも》うと、こわさはこわいし、気《き》にはなるし、だんだんじっとして辛抱《しんぼう》していられなくなりました。それでもあれほど固《かた》く「見《み》るな。」といわれたものを見《み》ては、なおさらどんな災難《さいなん》があるかもしれません。
坊《ぼう》さんはしばらく見《み》ようか、見《み》まいか、立《た》ったり座《すわ》ったり迷《まよ》っていましたが、おばあさんはやっぱり帰《かえ》って来《こ》ないので、とうとう思《おも》いきって、そっと立《た》って行って、次《つぎ》の間《ま》のふすまをあけました。
すると坊《ぼう》さんは驚《おどろ》いたの、驚《おどろ》かないのではありません。あけるといっしょに中からぷんと血《ち》なまぐさいにお
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