と、ろばはいいました。
「いのちとかえがけというところだ。けいきのいい顔をしてもいられまい。なにしろ年をとって来てね、歯はばくばくになる、ねずみのやつをおいまわすよりか、ろばたで香箱《こばこ》つくって、ごろにゃん、ごろにゃん、のどをならしていたくなるさ。そこで、主人のかみさんが、いっそ水にはめておしまいよといいだした。そうされないうちに、とびだしては来たが、さていい思案《しあん》はないしさ、いったいどこへどう行ったものかと、あぐねているのだよ。」と、ねこはいいました。
「おれたちとなかまで、ブレーメンの町へ行けよ。おまえさんは、夜の音楽ならお手のものだろう、町の楽隊につかってもらえるぜ。」と、ろばはいいました。
 ねこは、さっそくさんせいして、いっしょに出かけました。
 やがて、三人組の脱走者《だっそうしゃ》は、とある屋敷《やしき》内に来かかりました。門の上に、その家のおんどりがのっていて、ありったけの声をふりしぼって、さけび立てていました。
「おい、骨のしんまで、じいんとくるような声を出すなあ。どうかしたのかい。」
と、ろばはいいました。
「なあに、あしたはいいお天気ですよって、知ら
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