人は、むすめたちのうちの、ひとりだって、自分の代りに死んでもらおうなどとは、ゆめにもおもいませんでしたが、さしあたりうちへかえって、むすめたちの顔をみて、死にたいとおもいました。それで、かならず戻ってくるとちかいますと、怪獣も、それなりゆるしてくれたうえ、から手でかえることはないからといって、ゆうべねむったへやへ、もういちど行ってみよといってくれました。そこには、大きな箱があるから、この御殿の中にありそうなもの、なんでもそれにいっぱいつめて行くがいい、いずれあとから箱はうちまでとどけてやるといいました。
 商人は、せめて、こどもたちに、もって行ってやるおみやげのできたことだけでもよろこんで、いわれたとおり行ってみますと、なるほど大きな箱があって、そのそばのゆかに、金貨《きんか》が山と積《つ》まれていました。商人は箱に金貨をつめると、それなりまた、とぼとぼうちへかえって行きました。つみとったばらの枝は、そのまま手にもっていて、こどもたちが出むかえますと、まず末のむすめに、ばらの花をわたしながら、「さあ、ラ・ベルちゃんや、これをあげるが、その花一りんが、このあわれなおとうさんに、どんなにた
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