んだってね。」
「まあ、わたしも、遠い海をこえていけるくらいな、大きい木だったら、さぞいいだろうなあ。けれどこうのとりさん、いったい海ってどんなもの。それはどんなふうに見えるでしょう。」
「そうさな、ちょっとひとくちには、とてもいえないよ。」
 こうのとりはこういったまま、どこかへとんでいってしまいました。そのとき、空の上でお日さまの光が、しんせつにこういってくれました。
「わかいあいだが、なによりもいいのだよ。ずんずんのびて、そだっていくわかいときほど、たのしいことはないのだよ。」
 すると、風も、もみの木にやさしくせっぷんしてくれました。つゆもはらはらと、しおらしいなみだを、かけてくれました。けれどももみの木には、それかどういうわけかわかりませんでした。
 クリスマスがちかくなってくると、わかい木がなんぼんもきりたおされました。なかには、このもみの木よりもわかい小さいのがありましたし、またおない年ぐらいのもありました。ですからもみの木は、じぶんも早くよその世界《せかい》へでたがって、まいにち、気が気でありませんでした。そういうわかい木たちは、なかでも、ことに枝ぶりの美しい木でしたから、それなりきられて、車につまれて、馬にひかれて、森をでていきました。
「どこへいくんだろう。あの木たちは、みんな、わたしより小さいし、なかにはずっと小さいのもある。それからまた、なんだって、枝をきりおとされないんだろう。いったい、どこへつれていかれるんだろう。」
 もみの木は、こういってきくと、そばですずめたちが、さえずっていいました。
「しっているよ、しっているよ、町へいったとき、ぼくたちは、まどからのぞいたから、しっているよ。みんなは、そりゃあすばらしいほど、りっぱになるんだよ。まどからのぞくとね、あたたかいおへやのまんなかに、小さなもみの木は、みんな立っていたよ。金《きん》いろのりんごだの、蜜《みつ》のお菓子《かし》だの、おもちゃだの、それから、なん百とも知れないろうそくだので、それはそれは、きれいにかざられていたっけ。」
「で、それから――。」と、もみの木は、のこらずの枝をふるわせながらたずねました。「ねえ[#「「ねえ」は底本では「ね「え」]、それから、どうしたの。」
「うん、それからどうしたか、ぼくたちはしらないよ。とにかく、あんなきれいなものは、ほかでは見たことがないね。
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