あたま》の上をすうすうながれていく、ばらいろの雲を見ても、ちっともうれしくありませんでした。
やがて冬になりました。ほうぼう雪が白くつもって、きらきらかがやきました。するとどこからか一ぴきの野うさぎが、まい日のように来て、もみの木のあたまをとびこえとびこえしてあそびました。――ああ、じつにいやだったらありません。――でも、それからのち、ふた冬とおりこすと、もみの木はかなり、せいが高くなりましたから、うさぎはもうただ、そのまわりを、ぴょんぴょん、はねまわっているだけでした。
「ああうれしい。だんだんそだっていって、今に大きな年をとった木になるんだ。世のなかにこんなにすばらしいことはない。」
もみの木は、こんなことを考《かんが》えていました。
秋になると、いつも木こりがやって来て、いちばん大きい木を二、三本きりだします。これは、まい年のおきまりでした。そのときは、見あげるほど高い木が、どしんという大きな音をたてて、地面《じめん》の上にたおされました。そして枝をきりおとされ、太《ふと》いみきのかわをはがれ、まるはだかの、ほそっこいものにされて、とうとう、木だかなんだかわけのわからないものになると、この若いもみの木は、それをみてこわがってふるえました。けれども、それが荷車《にぐるま》につまれて、馬にひかれて、森を出ていくとき、もみの木はこうひとりごとをいって、ふしぎがっていました。
みんな、どこへいくんだろう。いったいどうなるんだろう。
春になって、つばめと、こうのとりがとんで来たとき、もみの木はさっそくそのわけをたずねました。
「ねえ、ほんとにどこへつれて行かれたんでしょうね。あなたがた。とちゅうでおあいになりませんでしたか。」
つばめはなんにもしりませんでした。けれどもこうのとりは、しきりとかんがえていました。そしてながいくびを、がってん、がってんさせながら、こういいました。
「そうさね、わたしはしっているとおもうよ。それはね、エジプトからとんでくるとちゅう、あたらしい船《ふね》にたくさん、わたしは出あったのだが、どの船にもみんな、りっぱなほばしらが立っていた。わたしはきっと、このほばしらが、おまえさんのいうもみの木だとおもうのだよ。だって、それにはもみの木のにおいがしていたもの。そこで、なんべんでも、わたしはおことづけをいいます。大きくなるんだ、大きくなる
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