Aなかまのひとたちと、おたがいもののわかった話をしあうことだ。バケツだけは、ときどき裏までつれていかれるが、そのほかのなかまは、いつでもうちのなかでくらしている。わたしたちのなかまで新聞|種《だね》の提供者《ていきょうしゃ》は、市場がよいのバスケットだ。ところが、あの男は、政府や人民のことで、だいぶおだやかでない話をする。それで、こないだも、古瓶《ふるがめ》のじいさんが、びっくりしてたなからころげおちて、こなごなにこわれたくらい[#「くらい」は底本では「くい」]だ。あいつは、自由主義だよ、まったく。」
「さあ、きみは、あんまりしゃべりすぎるぞ。」と、ほくち箱が、くちをはさみました。そして、火切石にかねをぶつけたので、ぱっと火花がちりました。
「どうだ、おたがいに、おもしろく、ひと晩すごそうじゃないか。」
「うん、このなかで、だれがいちばん身分たかく生まれてきたか、いいっこしようよ。」と、マッチがいいました。
「いいえ、わたくし、じぶんのことをとやかく申したくはございません。」と、石のスープ入がこたえました。「まあ、それよりか、たのしい夕べのあつまりということにいたしてはどうでございましょう。さっそく、わたくしからはじめますよ。わたくしは、じっさい出あったお話をいたしましょう、まあどなたもけいけんなさるようなことですね。そうすると、たれにもよういにそのばあいがそうぞうされて、おもしろかろうとおもうのでございます。さて、東海は、デンマルク領のぶな林で――」[#「」」は底本では欠落]
「いいだしがすてきだわ。この話、きっとみんなおもしろがるわ。」と、お皿たちがいっせいにさけびました。
「さよう、そこのある、おちついた家庭で、わたくしはわかい時代をおくったものでしたよ。そのうちは、道具などがよくみがかれておりましてね。ゆかはそうじがゆきとどいておりますし、カーテンも、二週間ごとに、かけかえるというふうでございました。」
「あなたは、どうもなかなか話じょうずだ。」と、毛ぼうきがいいました。「いかにも話し手が婦人だということがすぐわかるようで、きいていて、なんとなく上品で、きれいな感じがする。」
「そうだ。そんな感じがするよ。」と、バケツがいって、うれしまぎれに、すこしとび上がりました。それで、ゆかのうえに水がはねました。
で、スープ入は話をつづけましたが、おしまいまで、なか
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