まんなかに通って、――といいたいところですがじつはころころころがって行って、ごちそうのおぜんのまえにすわりました。
「どうも、今日はおもてなし、ありがとうございます」
 こういって、ちいさなたにしが、りっぱに、ごあいさつの口上《こうじょう》をのべたので、長者《ちょうじゃ》屋敷の人たちも、ほんとうにびっくりしてしまいました。
「いくら水神《すいじん》さまのお申《もう》し子《ご》でも、こんなりこうな口をきくたにしはめずらしい」
 こうおもって、長者はこのたにしを、いつまでもうちの宝物《たからもの》にしておきたくなりました。そこで、たにしのごきげんをとるつもりで、
「たにしどの、たにしどの、お前さんをうちのむすめのむこにとりたいが、どうだね」
といいました。すると、たにしはまじめな声で、
「それはどうもありがとうございます。ではうちへ帰って、おとうさんとおかあさんに話してみましょう」
といって、さもうれしそうに帰って行きました。
 たにしは帰るとさっそく、両親の百姓夫婦《ひゃくしょうふうふ》にこの話をしました。お百姓《ひゃくしょう》はおどろいて、長者《ちょうじゃ》の所《ところ》へほんとうかど
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