んをじぶんの帯《おび》のあいだに、ちょこなんとはさんで、仲《なか》よく話しながら行きました。でも往来《おうらい》の人には、帯の上におむこさんのいることがわからず、およめさんがぶつぶつひとりごとをいってあるいているように見えるので、みんなふりかえって、ふしぎそうな顔をしました。
ある日、お天気がいいので、いつものように、帯のあいだにおむこさんをはさんで、およめさんは、お里の両親をたずねに行きました。
水神《すいじん》のお社《やしろ》の前までくると、たにしのおむこさんは、
「どうも帯のあいだにのせられてばっかりいるのも、きゅうくつになった。すこしおりて休んでいこう」
と、およめさんにいいました。
「ではこの上がきれいで、ひろくっていいでしょう」
と、およめさんはいって、石の鳥居《とりい》の上に、おむこさんを休ませました。
「ああ、ひろい田んぼが見えて、青青《あおあお》した空がながめられて、ひさしぶりでいい心持《こころも》ちだ。わたしはここでしばらく日向《ひなた》ぼっこをしているから、そのあいだにお前はお社へおまいりしてくるといいよ」
「それでは、いそいで行ってまいります」
およめさんは、それから石段をのぼって、お社《やしろ》におさい[#「さい」に傍点]銭《せん》をあげて、ていねいに神さまにおじぎをして、またいそいで、石段をおりて帰って行きました。
ところで、もとの石の鳥居《とりい》の所《ところ》まできてみると、そこにちゃんとのっていたはずの、たにしのおむこさんの姿《すがた》が見えません。鳥居の台石《だいいし》からころげ落ちたのかとおもって、そこらをきょろきょろ見まわしましたが、それらしいもののかげもかたちも見えません。
もしやからすが、ついくちばしのさきでつばんで、持って行ったのではないか、どうかしてそこらの田のなかへでも、ころがって行ったのであればいいがとおもって、およめさんは田んぼのなかにはいってみました。春さきのことで田のなかは、水がじくじくわき出していて、田の草のなかから、すみれやげんげの花が、顔を出していました。
およめさんはよそ行きのきれいな着物が、どろでよごれるのもわすれて、水田《すいでん》のなかへはいって行きました。そうして、
「つぶ、つぶ、お里へまいらぬか。
つぶ、つぶ、むこどの、どこへ行《い》た、
お彼岸《ひがん》まいりに
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