まんなかに通って、――といいたいところですがじつはころころころがって行って、ごちそうのおぜんのまえにすわりました。
「どうも、今日はおもてなし、ありがとうございます」
こういって、ちいさなたにしが、りっぱに、ごあいさつの口上《こうじょう》をのべたので、長者《ちょうじゃ》屋敷の人たちも、ほんとうにびっくりしてしまいました。
「いくら水神《すいじん》さまのお申《もう》し子《ご》でも、こんなりこうな口をきくたにしはめずらしい」
こうおもって、長者はこのたにしを、いつまでもうちの宝物《たからもの》にしておきたくなりました。そこで、たにしのごきげんをとるつもりで、
「たにしどの、たにしどの、お前さんをうちのむすめのむこにとりたいが、どうだね」
といいました。すると、たにしはまじめな声で、
「それはどうもありがとうございます。ではうちへ帰って、おとうさんとおかあさんに話してみましょう」
といって、さもうれしそうに帰って行きました。
たにしは帰るとさっそく、両親の百姓夫婦《ひゃくしょうふうふ》にこの話をしました。お百姓《ひゃくしょう》はおどろいて、長者《ちょうじゃ》の所《ところ》へほんとうかどうか、たずねにきました。長者もいまさら、それはじょうだんだともいえないので、
「ああ、ほんとうだとも。では、ふたりのむすめをよんで、どちらがむすこさんのおよめになるかきいてみよう」
といって、まず姉《あね》のむすめをよび出しました。
「かわいいたにしどのを、お前はむこにとりたいか」
こういうと、姉のむすめは半分もきかずに、
「まあ田のなかのきたない虫っけらなんか」
と、おこった声でいって、畳《たたみ》をけ立てて出て行きました。
そこで、こんどは、妹《いもうと》のむすめをよび出しました。
「かわいいたにしどのを、お前はむこにとりたいか」
こういうと、妹のむすめは、
「おとうさんのお約束《やくそく》なさったことなら、そのとおりにいたしましょう」
と、すなおにこたえたので、とうとう、たにしの子は長者のむこになることになりました。
三
長者のむすめは、たにしのおむこさんをだいじにして、その上、たにしのおとうさんやおかあさんにもしんせつにしてやりました。でもこのおむこさんはあまりちいさいので、一緒《いっしょ》に里のおとうさんおかあさんの家へ行くときにはおよめさんはおむこさ
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