しっかり者のすずの兵隊
DEN STANDHAFTIGE TINSOLDAT
ハンス・クリスティアン・アンデルセン Hans Christian Andersen
楠山正雄訳

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)舞踏会《ぶとうかい》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)通行|税《ぜい》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#挿絵(fig42379_01.png)入る]
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[#挿絵(fig42379_01.png)入る]
 あるとき、二十五人すずの兵隊がありました。二十五人そろってきょうだいでした。なぜならみんなおなじ一本の古いすずのさじからうまれたからです。みんな銃剣をかついで、まっすぐにまえをにらめていました。みんな赤と青の、それはすばらしい軍服を着ていました。ねかされていた箱のふたがあいて、この兵隊たちが、はじめてこの世の中できいたことばは、
「やあ、すずの兵隊だ。」ということでした。このことばをいったのはちいちゃな男の子で、いいながら、よろこんで手をたたいていました。ちょうどこの子のお誕生日だったので、お祝にすずの兵隊をいただいたのでございます。
 この子はさっそく兵隊をつくえの上にならべました。それはおたがい生きうつしににていましたが、なかで、ひとりが少しちがっていました。その兵隊は一本足でした。こしらえるときいちばんおしまいにまわったので、足一本だけすずがたりなくなっていました。でも、この兵隊は、ほかの二本足の兵隊同様、しっかりと、片足で立っていました。しかも、かわったお話がこの一本足の兵隊にあったのですよ。
 兵隊のならんだつくえの上には、ほかにもたくさんおもちゃがのっていました、でもそのなかで、いちばん目をひいたのはボール紙でこしらえたきれいなお城でした。そのちいさなお窓からは、なかの広間がのぞけました。お城のまえには、二、三本木が立っていて、みずうみのつもりのちいさな鏡をとりまいていました。ろうざいくのはくちょうが、上でおよいでいて、そこに影をうつしていました。それはどれもみんなかわゆくできていましたが、でもそのなかで、いちばんかわいらしかったのは、ひらかれているお城の戸口のまんなかに立っているちいさいむすめでした。むすめはやはりボール紙を切りぬいたものでしたが、それこそすずしそうなモスリンのスカートをつけて、ちいさな細い青リボンを肩にゆいつけているのが、ちょうど肩掛のようにみえました。リボンのまんなかには、その子の顔ぜんたいぐらいあるぴかぴかの金ぱくがついていました。このちいさなむすめは両腕をまえへのばしていました。それは踊ッ子だからです。それから片足をずいぶん高く上げているので、すずの兵隊には、その足のさきがまるでみえないくらいでした。それで、この子もやはり片足ないのだろうとおもっていました。
「あの子はちょうどおれのおかみさんにいいな。」と、兵隊はおもいました。「でも、身分がよすぎるかな。あのむすめはお城に住んでいるのに、おれはたったひとつの箱のなかに、しかも二十五人いっしよにほうりこまれているのだ。これではとてもせまくて、あの子に来てもらっても、いるところがありはしない。でも、どうかして近づきにだけはなりたいものだ。」
 そこで兵隊は、つくえの上にのっているかぎタバコ箱のうしろへ、ごろりとあおむけにひっくりかえりました。そうしてそこからみると、かわいらしいむすめのすがたがらくに見えました。むすめは相かわらずひっくりかえりもしずに、片足でつり合いをとっていました。
 やがて晩になると、ほかのすずの兵隊は、のこらず箱のなかへ入れられて、このうちの人たちもみんなねにいきました。さあ、それからがおもちゃたちのあそび時間で、「訪問ごっこ」だの、「戦争ごっこ」だの、「舞踏会《ぶとうかい》」だのがはじまるのです。すずの兵隊たちは、箱のなかでがらがらいいだして、なかまにはいろうとしましたが、ふたをあけることができませんでした。くるみ割はとんぼ返りをうちますし、石筆《せきひつ》は石盤《せきばん》の上をおもしろそうにかけまわりました。それはえらいさわぎになったので、とうとうカナリヤまでが目をさまして、いっしょにお話をはじめました。それがそっくり歌になっていました。ただいつまでも、じっとしてひとつ場所をうごかなかったのは、一本足のすずの兵隊と、踊ッ子のむすめだけでした。むすめは片足のつまさきでまっすぐに立って、両手をまえにひろげていました。すると、兵隊もまけずに、片足でしっかりと立っていて、しかもちっともむすめから目をはなそうとしませんでした。
 するうち、大時計が十二時を打ちました。
「ぱん。」いきなりかぎタバコ箱のふたがはね上がりました。
 で
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