、そんなことなのか。わたしの生《い》き肝《ぎも》で、竜王《りゅうおう》のお后《きさき》さんの病気《びょうき》がなおるというのなら、生《い》き肝《ぎも》ぐらいいくらでも上《あ》げるよ。だがなぜそれをはじめから言《い》わなかったろうなあ。ちっとも知《し》らないものだから、生《い》き肝《ぎも》はつい出がけに島《しま》へ置《お》いてきたよ。」
「へえ、生《い》き肝《ぎも》を置《お》いてきたのですって。」
「そうさ、さっきいた松《まつ》の木の枝《えだ》に引《ひ》っかけて干《ほ》してあるのさ。何《なに》しろ生《い》き肝《ぎも》というやつは時々《ときどき》出《だ》して、洗濯《せんたく》しないと、よごれるものだからね。」
猿《さる》がまじめくさってこういうものですから、くらげはすっかりがっかりしてしまって、
「やれ、やれ、それはとんだことをしましたねえ。かんじんの生《い》き肝《ぎも》がなくっては、お前《まえ》さんを竜宮《りゅうぐう》へ連《つ》れて行ってもしかたがない。」
「ああ、わたしだって竜宮《りゅうぐう》へせっかく行くのに、おみやげがなくなっては、ぐあいが悪《わる》いよ。じゃあごくろうでも、もう一|度《ど》島《しま》まで帰《かえ》ってもらおうか。そうすれば生《い》き肝《ぎも》を取《と》ってくるから。」
そこでくらげはぶつぶつ言《い》いながら、猿《さる》を背負《せお》って、もとの島《しま》まで帰《かえ》っていきました。
猿《さる》が島《しま》に着《つ》くと、猿《さる》はあわててくらげの背中《せなか》からとび下《お》りて、するすると木の上へ登《のぼ》っていきましたが、それきりいつまでたっても下《お》りてはきませんでした。
「猿《さる》さん、猿《さる》さん、いつまで何《なに》をしているの。早《はや》く生《い》き肝《ぎも》を持《も》って下《お》りておいでなさい。」
とくらげはじれったそうに言《い》いました。すると猿《さる》は木の上でくつくつ笑《わら》い出《だ》して、
「とんでもない。おとといおいで。今日《こんにち》はごくろうさま。」
と言《い》いました。くらげはぷっとふくれっつらをして、
「何《なん》だって。じゃあ生《い》き肝《ぎも》を取《と》ってくる約束《やくそく》はどうしたのです。」
「ばかなくらげやい。だれが自分《じぶん》で生《い》き肝《ぎも》を持《も》っていくやつがあ
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