行くと猿《さる》は、
「くらげさん、くらげさん。まだ竜宮《りゅうぐう》までは遠《とお》いのかい。」
「ええ、まだなかなかありますよ。」
「ずいぶんたいくつするなあ。」
「まあ、おとなしくして、しっかりつかまっておいでなさい。あばれると海《うみ》の中へ落《お》ちますよ。」
「こわいなあ。しっかり頼《たの》むよ。」
こんなことを言《い》っておしゃべりをしていくうちに、くらげはいったいあまり利口《りこう》でもないくせにおしゃべりなおさかなでしたから、ついだまっていられなくなって、
「ねえ、猿《さる》さん、猿《さる》さん、お前《まえ》さんは生《い》き肝《ぎも》というものを持《も》っておいでですか。」
と聞《き》きました。
猿《さる》はだしぬけにへんなことを聞《き》くと思《おも》いながら、
「そりゃあ持《も》っていないこともないが、それを聞《き》いていったいどうするつもりだ。」
「だってその生《い》き肝《ぎも》がいちばんかんじんな用事《ようじ》なのだから。」
「何《なに》がかんじんだと。」
「なあにこちらの話《はなし》ですよ。」
猿《さる》はだんだん心配《しんぱい》になって、しきりに聞《き》きたがります。くらげはよけいおもしろがって、しまいにはお調子《ちょうし》に乗《の》って猿《さる》をからかいはじめました。猿《さる》はあせって、
「おい、どういうわけだってば。お言《い》いよ。」
「さあ、どうしようかな。言《い》おうかな、言《い》うまいかな。」
「何《なん》だってそんないじの悪《わる》いことを言《い》って、じらすのだ。話《はな》しておくれよ。」
「じゃあ、話《はな》しますがね、実《じつ》はこの間《あいだ》から竜王《りゅうおう》のお后《きさき》さまが御病気《ごびょうき》で、死《し》にかけておいでになるのです。それで猿《さる》の生《い》き肝《ぎも》というものを上《あ》げなければ、とても助《たす》かる見込《みこ》みがないというので、わたしがお前《まえ》さんを誘《さそ》い出《だ》しに来《き》たのさ。だからかんじんの用事《ようじ》というのは生《い》き肝《ぎも》なんですよ。」
そう聞《き》くと猿《さる》はびっくりして、ふるえ上《あ》がってしまいました。けれど海《うみ》の中ではどんなにさわいでもしかたがないと思《おも》いましたから、わざとへいきな顔《かお》をして、
「何《なん》だ
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