かまえて、ただひと口に、あんぐりやってしまいました。ただ、大時計の箱のなかにかくれた、いちばん小さな子だけは、みつからずにすみました。さて、たらふくたべたいだけたべて、おなかがくちくなると、おおかみはおもてへにげ出して、木のかげになって、青あおとしているしばの上に、ながながとねそべって、ぐうぐういびきをかきだしました。
三
それから間もなく、おかあさんやぎは、森からかえって来ました。ところで、まあ、おかあさんやぎは、そのときなにを見たでしょう。おもての戸は、いっぱいにあけひろげてありました。テーブルも、いすも、腰かけも、ほうりだされていました。洗面《せんめん》だらいは、こなごなにこわれていました。夜着《よぎ》もまくらも、寝台《しんだい》からころげおちていました。
おかあさんやぎは、こどもたちをさがしましたが、ひとりもみつかりません。ひとりひとり、名前をよんでも、たれも返事《へんじ》をするものがありません。おしまいに、いちばん下の子の名前まで来て、はじめて、ほそい声で、
「かあさん、あたい、時計のお箱にかくれているよ。」というのが、きこえました。
おかあさんや
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