ません。私は矢張り活動館の中にいるのです。
 そんなことを考えているうちにも、カメラはどんどん岩を乗越えて進み、城が次第に大きく眼の前に拡がって来ました。すると、今まで暗かった城の窓に、ぱっと灯が入り、人影さえ写って来ました、――私は活動写真の中に、夢の続きを見ているのです。
 気がつくと、私は息をはずませながら、小屋の外へ飛出し、当てもなくもう夕闇の迫りかけた、なんとなく、遽《あわただ》しい街の中をせかせか歩きながら、あの奇妙な『偶然』を幾度も幾度も反芻していました。
 なんという恐ろしい偶然だったでしょう。勿論私は一度だって、あんな外国に行ったことはありません、絵ですら見たことはないのです。夢で見たきりなのです。
 ――いま、あの小屋では私の夢の続きを映写しているのだ、そして多くの人が、「私の夢」を観賞しているのです……。
 私はもう、訳もなく額に汗を浮べて、せかせかと街の中を歩き廻っていました。
       ×
 皆さんは、多分それから私がもうこの恐ろしい活動写真というものを見なくなったろうとお思いでしょう、ところがどうして私は前よりも熱心になって方々の活動館を見てあるくように
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