すか、それは何よりですね』
山鹿は白々しく口をきると、
『どうも驚ろきましたね、この人の出さかる海岸開きの真ッ昼《ぴるま》だっていうのに、人殺しとはねえ――』
馴れ馴れしく話しだした。
『ほう、殺られたんですかね』
『そりゃそうでしょう。自殺するんなら、――それに若い娘ですもん、こんな人ごみの中で短刀自殺なんかするもんですか、もっと、どうせ死ぬんならロマンチックにやりますよ、全く――』
『へえ、でも、僕はさっきから見てたんですけど、誰もそばに行かなかったですよ……』
『さっき[#「さっき」に傍点]から見てられて、ね――』
山鹿は、一寸皮肉気に、口を歪《ゆが》めて笑った。これが、この男のくせ[#「くせ」に傍点]であった。
『いいや、それは……』
鷺太郎は、
(畜生――)
と思いながらも、ぽーっと耳朶《みみたぼ》の赤らむのを感じて、
『いや、それにしても……成るほど、あそこに寝るまで手に何も持っていなかったですね……匕首《あいくち》が落ちていたんじゃないかな』
『冗談でしょう。この人の盛上った海岸に、抜身の匕首が、それもたて[#「たて」に傍点]に植《うわ》っていた、というんですか
前へ
次へ
全62ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
蘭 郁二郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング