う自分の姿が、ひどく見窄《みすぼら》しく感じられて、肩をすぼめてその一|群《むれ》のパラソルの村を抜けると、後方に設けられた|海の店《シー・ストア》の一軒「サフラン」に這入《はい》った。
 彼はデッキチェアーに靠《もた》れて、沸々《ふつふつ》とたぎるソーダ水のストローを啣《くわ》えた儘《まま》、眼は華やかな海岸に奪われていた。
 ――こういう時に、青年の眼というものは、えてして一つの焦点に注がれるものなのである。
 御多聞《ごたぶん》にもれず、鷺太郎の眼も、いつしか一人の美少女に吸つけられていた。
 勿論《もちろん》、見も知らぬ少女ではあったが、この華やかな周囲の中にあっても、彼女は、すぐ気づく程きわだって美しかった。
 そのグループは深紅と、冴えた黄とのだんだら縞《じま》のテントをもった少女ばかりの三人であった。
 鷺太郎の眼を奪った、その三人組の少女は、二人|姉妹《きょうだい》とそれに姉のお友達で、瑠美子《るみこ》――というのが、その姉娘の名であった。
 彼は、その瑠美子にすっかり注目してしまったのである。まことに、なんと彼女を形容したらいいであろうか。その深紅の海水着が、白く柔かい肢体に、心にくいまでにしっかり[#「しっかり」に傍点]と喰込み、高らかな両の胸の膨らみから、腰をまわって、すんなりと伸びた足の先にまで、滑らかに描かれた線は、巨匠の描く、それのように、鮮やかな均斉のとれた見事さであった。
 そして、その白く抜けた額《ひたい》に、軽がると降りかかるウエーヴされた断髪は、まるで海草のように生々《なまなま》しく、うつくしく見えた。
 彼女は何んの屈託気《くったくげ》もなく、朗らかに笑っていた。そしてその笑うたびに、色鮮やかに濡れた脣《くちびる》の間から、並びのよい皓歯《こうし》が、夏の陽に、明るく光るのであった。
『じゃ――、泳いでこない?』
『ええ、行きましょう――』
 砂を払って立った三人の近代娘は、朗らかに肩を組んで、渚を馳けて行った。その断髪のあたまが、ぷかぷかと跳ねると、やがて、さっとしぶきを上げて、満々とした海に、若鮎のように、飛込んで行った。
 ※[#「口+息」、311−4]《ほ》っと、鷺太郎は無意味な吐息をもらして、見るともなくあたりへ眼をやると、
『あ――』
 彼は、思わず、啣《くわ》えた儘《まま》のストローから口をはなした。
 その三人
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