つ》とした美少女の群れが、まる一年、陽の目も見なかった貴重な肢体を、今、惜気もなく露出《ろしゅつ》し、思い思いの大胆な色とデザインの海水着をまとうて、熱砂《ねっさ》の上に、踊り狂うのである。
――なんと自由な肢体であろう。
それは、若き日にとって、魅力多き賑《にぎ》わいである。
二
胸を病んだ白藤鷺太郎《しらふじさぎたろう》は、そのK――町の片隅にあるSサナトリウムの四十八号室に居た。
あの強烈な雰囲気に溢れたY海岸からは、ものの十五丁と離れぬ位、このサナトリウムだのに、恰度《ちょうど》其処が、崖の窪みになっていて、商店街からも離れていたせいか、一年中まるでこの世から忘れられたように静かだった。
然し、このサナトリウムにも、夏の風は颯爽と訪れて来る。白藤鷺太郎は、先刻《さっき》からの花火の音に誘われて、二階の娯楽室から、松の枝越しに望まれる海の背に見入っていた。
ポーン、と乾いた音がすると、ここからもその花火の煙りが眺められるのである。
(今日は、海岸開きだな……)
鷺太郎は早期から充分な療養をした為《ため》、もういつ退院してもいい位に恢復していた。だが、折角《せっかく》のこのK――の夏を見棄て周章《あわて》て、東京に帰るにも及ぶまい、という気持と、それにこのサナトリウムが学友の父の経営になっている、という心安さから、結局、医者つきのアパートにでもいる気になってこの一夏はここの入院生活で過すつもりでいた。
(行ってみようかな)
もう体も大丈夫、と友人の父である院長にいわれた彼は、好きな時間に散歩に出ることが出来た。
彼は、うんと幅の広い経木《きょうぎ》の帽子をかぶると、浴衣《ゆかた》に下駄をつっかけて、サナトリウムの門を抜け、ゆっくり、日蔭《ひかげ》の多い生垣《いけがき》の道を海岸の方に歩いて行った。
軈《やが》て、生垣がとだえると、ものものしく名の刻まれた一|間《けん》ばかりの石橋を渡る――そこから右に折れればY海岸が、目の下にさっと展《ひら》けるのだ。
鷺太郎は、その小高い丘の上に立って、びっくりするほど変貌した海岸の様子に眼を見張っていた。
蒼空の下《もと》、繰りひろげられた海岸の風景は、なんと華やかな極彩色な眺めであったろう。まるで百花撩乱のお花畑のような、ペンキ塗りの玩具箱《おもちゃばこ》をひっくり返したような、青春
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