やかに照りかがやいた。
 鷺太郎は、偸見《ぬすみみ》るようにして、経木《きょうぎ》の帽子をまぶかに被《かぶ》りゆっくりと歩いて行った。
 その少女は、熱砂《ねっさ》の上に、俯伏になっていたが、時折、両の手をぶるぶると顫《ふる》わせながら、砂をかき乱していた。その手つきは砂《すな》いたずら[#「いたずら」に傍点]にしては、甚《はなは》だ不器用なものであった。なぜなら、彼女は自分の顔に砂のとびかかるのも知らぬ気に美しい爪を逆立てて掻寄《かきよ》せていたのだ――。
 ――鷺太郎が、いや、その周りにいた沢山の人たちが、その意味を知ったならば、どんなに仰天したことだろう――。
 鷺太郎の眼を奪った美少女は、矢張り誰もの注目の的になると見えて、そのあたりに学生らしい四五人の一団と、家族らしい子供二人を連れた一組と、そして見張りの青年団員が三人ばかり、渚に上げられた釣舟に腰をかけていたが、時々見ないような視線を投げ合うのを、鷺太郎はさっきから知っていた。
 彼女の、いま寝ているところは、先程までその学生達の三段|跳《とび》競技場であったが、いまは彼女一人、のけもののように、ぺたんとその空地へ寝ているのである。
 彼女は、猶《なお》もその無意味な砂《すな》いたずら[#「いたずら」に傍点]を二三度くり返したようであったが、それにも倦《あき》たのか、顔にかかった砂を払おうともせず、ぐったりと「干物」のようにのびていた。尤《もっと》も、干物にしては、余りに艶やかに美しかったけれど――。
 恰度《ちょうど》鷺太郎が、その横まで通りかかって行った時だ。テントの中から、妹らしい少女が、熱い砂の上を、螽※[#「虫+斯」、第3水準1−91−65]《ばった》のように跳ねながらやって来て、
『お姉さま――どお、まだ寒いの?』
『…………』
『ねえ、あんまり急に照らされちゃ毒よ――』
『…………』
 それでも、彼女は返事をしなかった。
『ええ、お姉さまったら……』
 そういって、抱き起そうとした時だ。
『アッ!』
 と一声、のけぞるような、驚ろきの声を上げると、
『芳《よ》っちゃん芳っちゃん、来てよ、へんだわ、へんだわお姉さまが――』
 と、テントに残っていたお友達に叫んだ。
 鷺太郎は、その突調子もない呼声《よびごえ》に、思わず来過ぎたその少女の方を振かえって見ると、
『おやっ……』
 彼も低く呟《つ
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