けど、ミケランジェロならあの日附より二十年も前の、一五六四年に死んでいたのじゃなくて……」
「ああそうか、なるほどなるほど、いかにもそうでしたね、……そりゃ叔父さんのクセが伝染《うつ》って六ヶ敷しく考えすぎたかナ……」
 私たちは思わず笑い出してしまった。
 病院の鷲尾老人は、その後おいおいに快方に向いつつある、ということだった。そして私と木美子が面会に行くと、ラジオを分解したり、組立てたりしながら、
「おお、よく来たね、さあもっと二人ともそばに寄って寄って、距離の自乗に逆比例するからね、うん、そうそう手を握って、よし、それが一番いい状態なんじゃ、いつもそうしておれば、決して火花を散らすようなことはない」
 と、この老いた恋愛電気学者は愉しそうに笑うのであった。
[#地付き](「奇譚」昭和十四年八月号)



底本:「火星の魔術師」国書刊行会
   1993(平成5)年7月20日初版第1刷発行
底本の親本:「百万の目撃者」越後屋書房
   1942(昭和17)年発行
初出:「奇譚」
   1939(昭和14)年8月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。但し「あんな六ヶ敷しいこと」「クセが伝染《うつ》って六ヶ敷しく」は底本でも「ヶ」になっています。
入力:門田裕志
校正:川山隆
2006年12月30日作成
青空文庫作成ファイル:
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