薄く口を開けたまま、森源の方を見かえした。
その、紅い唇の間から、ガラスの反射を受けた皓歯が、きらりと光った。
「うん、友達だよ」
森源は、何か弁解するように、そういうと
「ルミです……」
それっきり妻とも妹ともいわなかった。
「遠藤です、よろしく……」
と腰をあげていいながらも、私は、はげしい興味を覚えて来た。
彼女は何か二こと三こと、森源の耳に囁くと、又温室を出て行ってしまったけれど、その、焼きつくような印象的な姿体は、しばらく私の網膜から消えようともしなかった。
「実に美しいですね……鄙《ひな》には稀れ、というけれど、勿論この土地の人でもなかろうし、都会でも稀れですね」
森源は、嬉しそうに、又小鼻に皺を寄せ、
「いや、田舎者ですよ、ただ僕の、いわば趣味であんな恰好をさせているんですよ」
「ほほお、驚きましたね、そんな芸当もするんですか、私はまたただの変人――」
といいかけて、あわててあとを呑んでしまったけれど、森源は、苦笑して、
「あなたも聞かされて来ましたか、変人というのは交際ぎらいの僕には、いい肩書ですよ――」
森源は、自分で自分を変人にしているのだ。成るほど、これは頭のいい方法に違いない。
「どうです、ここは暑いから家へ行ってお茶でも――」
「ええ、私だけは交際してくれるんですか」
「皮肉ですね」
「いやいや、そういう訳じゃないんです。交際を、お願いしているんです……」
私は、少ししどろもどろだった。家へ行けば、あのルミという美少女がいるであろう、という期待を、見透かされまいとする気持が、逆に妙なことをいってしまったらしい。
森源は、先きに立って、温室を通り抜けた。そして、玄関にかかると、自然にドアが開いて、我々はポケットに手を入れたまま這入ることが出来た。
(ルミがドアを開けてくれたのか)
と思って、つッと振返ってみたが、ルミの姿はなく、而も、ドアは元通りぴったりと閉っているのだ。
廊下を通って、書斎らしい部屋に行った。その時も我々はドアに手をふれなかった。そればかりではない、そのドアには把手《ハンドル》が附いていないのだ。
「自動開閉ですよ」
森源は、私の不審そうな眼に答えた。
それから気をつけてみると、どうやらこの家は、あらゆる面に、極度に電化されているらしいことがわかった。気温が一定度より降れば暖房装置が働き、昇ればす
前へ
次へ
全16ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
蘭 郁二郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング