るし、温泉の暖房が縦横に通っているし、しかもあたりには香の高い南国の植物が、青々と葉を張っているので、ひどく浮世離れのしたいい気持になってその初対面の森源と話しこんでしまったのだ。
 森源も、噂とは違って決して話ぎらいではなかった、寧ろ私以上に話好きであるらしいことは、いつか仕事をすっかりほうり出してしまって、さあ、さあと土によごれ、少々しまりのゆるんだ円椅子を奨めて、ゆっくりとタバコなどを喫いはじめたことでもよくわかった。
「あなたは東京? ああそうでしょう、どうもこの辺の奴は、アンテナの話をすると逃げ出すんでね、はっははは」
 ガラスを通して、直接太陽の光りの下に浮き出した森源の容貌は、美青年という訳にはゆかなかったけれど、さして不愉快なものでもなかった。寧ろ、時に労働者に見えるような、凹んだ頬と、四角な逞しい顎とは、一種の精悍さを見せていた――光線のせいか、額に刻込まれた深い皺と、太い眉が余計にそうと見せたのかも知れない。

   電気屋敷

「地球磁力を肥料にする――というのは、相当面白いテーマだと思いますね、どうしてそれを発表しないのですか。而も実地に応用して二倍の成績をあげている、というんですから――」
 彼は、小鼻に皺を寄せて笑うと、
「……まだ、発表するなどというところまでは行っていませんね。一つのデータとはいえるかも知れないが、時機尚早、というところでしょう。勿論アンテナと地中線ばかりではないので、それに附属した装置が、まだ未完成だ、というんですよ」
「成程、それで、まだ発表出来ない、というんですね――」
 私は、これについては、もう追求しても無駄なことがわかったので、何かほかに話題を見つけようと、眼をあげた。
 すると、丁度その時、温室のドアを排して、一人の女性が這入って来た。
 途端に、この温室に、パッと花が咲いたように幻覚したほど、美しい女性であった。
 あたりが南国的な雰囲気にあったせいか、その美少女の色鮮やかな原色の紅と黄と青との大胆な洋装が、いかにもしっくりと合って、銀座などで相当行き交う美少女には見馴れていた筈の私が、はあっと眼を見張った位であった。断髪であった、それが又美しかった。濡れたような瞳であった、それが亦美しかった。
 先方でも、思いがけぬ私のいることに、よほどそばへ来てから、あっといったように立止って何か言葉を待つように、
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