、二つの生首は、ゴロンと転がりながらも、なお、しっかりと密着していた。
生首と、生首の接吻《せっぷん》!
恐ろしき深沢の執念!
タッタ今まで勝負に勝っていた源吉は、ドタン端《ば》で、深沢に、血の復讐を受けたのだ。
深沢は、それとなく後をつけて来たのか、或は、レールに横たわった京子の死骸に、恋する者の素早い直感で、源吉の計画を覚《さと》ったのだろう。そして、京子との不思議な、愉《たのし》き心中……
(畜生、二人だけで死なして置くものか!)
源吉は、激しく狼狽した。
(待て、京子。俺も、俺も……)
闇の中に、ナイフが閃《ひらめ》くと、源吉の躰は、くたくたと生首の上に頽《たお》れ、溝《どぶ》の中に転がり落ちた。
……鳴りを静めていた蟋蟀《こおろぎ》が、ジイッジイッと、重苦しい闇の中になき始めて来た。
底本:「怪奇探偵小説名作選7 蘭郁二郎集 魔像」ちくま文庫、筑摩書房
2003(平成5)年6月10日第1刷発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、一部大振りにつくっています。「岩ヶ根」の「ヶ」は大振りですが、「一ヶ月」の「ヶ」は小振りです。
初出:「秋田魁新報夕刊」
1934(昭和9)年1月13、14、16〜18日
入力:門田裕志
校正:川山隆
2006年11月13日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全6ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
蘭 郁二郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング