息を止める男
蘭郁二郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)乍《なが》ら

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(例)こめかみ[#「こめかみ」に傍点]の
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 無くて七癖というように誰れでも癖は持っているものだが、水島の癖は又一風変っていた。それは貴方にお話してもおそらくは信じてくれないだろうと思うがその癖は『息を止める』ということなのである。
 私も始め友人から聞いた時は冗談かと信じなかったが、一日彼の家に遊びに行った時に笑い乍《なが》ら訊いてみると、彼は頗《すこぶ》る真面目でそれを肯定するのである。私も不思議に思ってどうしてそんなことをするのかと聞いてみたが彼は首を振るばかりでなかなか話してくれなかった。
 然《しか》し話してくれないと尚聞き度くなるものであるし、又あまり変なことなので好奇心に馳られた私はどこまでも五月蠅《うるさ》く追窮したので、水島もとうとう笑いながら話してくれた。
『その話はね、誰れでも五月蠅く聞くんだ、その癖皆んな途中で莫迦《ばか》らしいと笑って了《しま》うんだ。それで僕もあまり話したくないんだ。まあ話を聞くよ
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