『駄目だなァ君は、今やっと最後の快感にはいり始めたのに……』そういって力のない瞳で私を見詰めるのだった。けれど私は水島にそういわれ乍らもなんとなく安心した様な気持になって、彼の言葉を淡く聞いていたのである。
私はあの息を止めるという不可能な実験の後、私の好奇心は急に水島に興味を覚えて、暇をみては彼の家に遊びに行くのが何時からとはなく例になっていた。
所が或る日、何時もの通り水島を訪れると恰度又彼があの不可思議な『眠り』をして居るところに行き合った、今見た彼の様子はいかにも幸福そうな、物静かな寝顔であった、この前は初めての事なので無意識の不安が彼の顔に死の連想を見せたのかも知れない……。
私はこの前のように周章《あわて》て起して機嫌を悪くされてもつまらぬから、そっと其儘にして見ているとしばらくして彼は目をさました。
そうして二十分も息を止めている間の奇怪な幻覚を話してくれたのである。それがどんな妖しい話であったか。
『僕が息を止めている間に様々な幻の世界を彷徨するというとさも大嘘のように思うだろうがまあ聞いてくれ給え。
例えばこの「息を止める」ということに一番近い状態は外界か
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