ことだし、川島の知人の範囲にも一組はあるのだが、三つ児というのは見たこともないし、あまり聞いたこともない。けれど五つ児ということもあるのだから決して荒唐ではない、いや、現在のこの場の奇妙さを説明するとすれば、そう考えるより仕方がなかった。
 それにしても、このそっくり同じな三人の少女と共に、こんな山奥で吉見という男は何を企んでいるのであろうか。
 川島の困惑に満ちた、遣り場のない眼が、やっと吉見の顔に止ると、吉見はそれを待っていたかのように、胡麻塩の髭に埋《うず》まった口辺《くちべり》を歪めて、白々と笑った。
「……君は結論から先きに這入ってしまったのだよ、この有様は、君をひどく愕かしてしまったらしいね、左様、宝石がだんだんに磨かれて行ったことを知らずに、いきなり出来上ったものの輝きに愕いているんだ」
「…………」
 川島は黙って吉見の顔を見詰めていた。返事が思いつかなかったのだ。
「よっぽどびっくりしているらしいね、まあいいさ一緒に来たまえ、すぐそんな疑問なんか棄ててしまうだろう」
 そういうと、吉見はもと来た森の中に帰りはじめた。川島は黙って頷くと、下してあったリュックサックを片肩にかけ、そのあとに続いて行った。
 まだ柏の幹のそばに佇んでいた二人の少女は、はじめて気がついたように、しかし相変らず無言のまますんなりと避《よ》けて、細い径《みち》を譲ってくれた。川島はその傍らを通り抜けた時に、何か、咲き乱れた花束のような匂いを感じた。
 径は、絶え絶えに細くつづいていた。径というよりも、少しばかり踏みかためられた木々の間を、心もち右肩を落して歩く吉見のままに従って行った感じだった。
 が、案外に早く崖が切れて、丸太造りの小屋についたのは沼のほとりから二三分のところであろうか。
 その小屋は一寸見たところ四五坪ぐらいのもので、ひどくお粗末な別荘といった感じだった。
「母屋《おもや》はも少し向うだけれど、まあここでお話しましょう、ここの方がいい」
 吉見はそんなことを呟くと、蝶番が茶色の粉を吹いたように錆ているドアを押して、招じ入れた。
「ここはわしの植物学研究所なのだ、尤も所長兼小使だが……」
 冗談らしくいったが、なるほどそういわれればその一部屋きりの小屋の中には、試験管だの、フラスコだの、顕微鏡だのそういった器械類が、丁度中学の時の化学教室を思い出させるような恰
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