小学校三年の時、一級上の女生徒と、なぜか一緒に遊びたかったけれど、言い出す元気もなく、その子の家の『小田』と書かれた表札を何度も読みながら、[#「、」は底本では「、、」]わざと傍目《わきめ》も振らず行ったり来たりして、疲れて家に帰った――そんな遠い遠い昔の事を不図《ふと》偲い出して、又チェッと舌打するのである。
 ……といって、野村は、爪を截りながら、私の顔を覗きこんだ。私は一寸、いやあな[#「いやあな」に傍点]気持がして、
『誰でもさ……』
 とタバコの煙りと一緒に吐出した。



底本:「怪奇探偵小説名作選7 蘭郁二郎集 魔像」ちくま文庫、筑摩書房
   2003(平成5)年6月10日第1刷発行
初出:「自由律」
   1932(昭和7)年8月号
入力:門田裕志
校正:川山隆
2006年11月13日作成
青空文庫作成ファイル:
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