、要するに一つの中心の核のまわりを幾つかの高速度の電子がぐるぐる廻っているものである、そしてそれは殆んど空間で満《みた》されているといっていい、つまり物質の容積とか体積とかいうものは、結局はカラである、家やテーブルや犬を形作っているものは殆んどすべてが空所である(では何故に物が崩れて眼に見えないような点になってしまわぬかという理由は、御承知のように原子の内部の電子と核とが互に引き合い斥け合っているからなのですが)、しかしこれにも増して愕くべきことは、この絶対に崩壊しないと思われていた原子すらも、人間の力によって、例えばサイクロトロンの強力磁場を利用する爆撃によって、電子を核からもぎ離し、実際に於いてその物質を破壊することが出来るようになった、という僕現在の仕事のことなのです。
 僕はこの(眼に見えないから想像の上の)原子というものを考える時、実に不思議なものを感ずるのです、僕は今、ある非常な不安に襲われているのです(これは他の人だったら、或いは相手にしないことかも知れませんから、木曾さんにだけいうのですが)、その非常な不安――というものをいう前に、先ず大きさというものが一体どんなものか
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