かし東京にだって蛇はいるのですから、愕くにあたりません。僕は健康です、そして準備の整い次第早く仕事にとりかかりたいと張切っていることをお伝えして置きます。石井さんも元気です、そして皆んなのために朗らかな雰囲気をいつも持たしてくれることに感謝しています。
 長い船旅のつれづれに考えたのですが、われわれ人間には話という「声」や、手紙という「文字」によらなくて、もっと直接的な通信(通信といって変ならば、意志の交換とでもいいましょうか)が科学的に掴まれなければならぬと思います、たとえば一群の蟻は、音もせぬ真暗闇の中でどうしてその全部の間に瞬間的な通信が出来るのか、飛んでいる※[#「蠢」の「春」に代えて「亡」、第3水準1−91−58]《あぶ》はどうしてお互いに見つけ出すことが出来るのか、それは生物間の通信というものに、「声」と「文字」以上のものがあることを思わせます、或いはまた恋とは声とか文字とか以外のものを持って調和し、科学ではわからない何らかの方法でお互いに感じたり、心と心、魂と魂とが交流したりすることが出来ることのようです、声は会話ばかりでなくラジオによって広められ、文字は手紙ばかりではな
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